2006年11月13日

[SS]例外オオカミ

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











例外オオカミ


フーンフーンフーーーン♪

鼻歌を歌いながら、足取り軽く旅館に戻る。
ここ「みすず旅館」を定宿にしてそろそろ一年。
今じゃシルバーリーブにも大分馴染みができて、
こうしてすんげー“お宝”が手に入ったりする。

つっても、クエストで手に入ったお宝じゃねぇ。
大体、冒険者になってからもクエストやってるより
よっぽどギャンブルやってる時間の方が長かったりする。
ま、貧乏低レベルパーティの悲しいところだ。
で、そのギャンブルで馴染みになったヤツから
今日の勝ちコインと交換でもらったのが、今おなかにしのばせてるブツ。


ムチムチの胸とお尻を持ったおれ好みの美人ねーちゃん達が勢ぞろいしている本。


この手のものは普通の本屋じゃ売ってねーから、行商人を通してこっそり
流通しているぐらいなもんで、噂には聞いていたがモノホンを手にしたのは
今日が初めてだった。

つーことで、これも立派な“お宝”だ。
鼻歌の一つも鳴らしたくなるってもんだ。

が、旅館の階段を上がるところで鼻歌は止めた。
ここからは仲間に見つかんねーようにしねぇとな。
おなかのブツがバレちゃ面倒だ。

特技の抜き足差し足で部屋に向かったところで、パステルの部屋から
明らかにパステルじゃない声が聞こえてきた。

「えぇ? それじゃあ、一緒に泊まることもあるの!?」

この声は……リタだな。猪鹿亭にいる時と変わらず声がでけぇ。
しかし、今の言い方は含みのある言い方だったな。
気になり、思わず部屋の前で立ち止まる。
続けて聞こえてきたのは聞きなれたマッパーの声。
「え? うん、たまにだけどね」

なんだ、この会話?
含みのある「泊まることあるの?」という質問に対し、
今、確かにパステルが肯定しなかったか?

だ、誰とだよ。
おれは頭の中でめまぐるしく……考えてみたものの、めぼしい相手が
思いつかねぇ。
冒険者になってから一年。毎日バイトが当たり前でそんな相手なんぞつくる
余裕なんてなかったと思ってた。
いや、そもそも、おれの人生史上最高の色恋沙汰無縁女のパステルが、
まさか、まさか「たまに泊まる」ような相手がいるなんて思いもしなかった。
あー、くそっ!
なんだよ、なんなんだよ。
なんかわかんねーけど、むかつく。

そんなおれの思考などお構いなく扉の向こうのおしゃべりは続く。
「パステル。余計なお世話かもしれないけど、それってちょっと
年頃の女の子としては危険なんじゃないの?」
「危険?」
「そーよー! パーティって言ったって、パステル以外は実質男ばっか
なんだから、もうちょっと自覚もたないと。お金ないのはわかるけど、
一つの部屋で寝るのはなんとか避けられないの?」


……んだよ。
おれらのことかよ。
一気に脱力する。
だよな。あのパステルが誰かとそんな関係になってるわきゃないんだよ。
ったく、紛らわしいこと言いやがって。

が、脱力してる場合じゃないことにすぐ気づく。
リタのやつ、何余計なこと言ってんだよ。

「もちろん、着替えとかは気遣ってもらってるよ。
一部屋と二部屋借りるのじゃ金額が全然違うもん。そういうところで節約しなきゃね」
「節約も大事だけど……。あのね、パステル。念のため聞くけど、
“男は皆オオカミ”って言葉知ってるよね」
「うん。聞いたことある」
「聞いたことあるって……。意味もわかるよね?」
「うーーーーん……多分」
「……まさかと思うけど、パステル……」

間が空くので、思わずドアに耳を近づける。

「どうやって赤ちゃんができるか知らないなんて言わないよね?」

思わず頭をゴツンとドアにぶつけそうになる。
な、なんだこの展開は!
リタ、おめぇってやつは……。
聞いてるこっちが汗が出てくるのはなぜなんだ。

「リタってば、声大きいよ」
動揺している声が聞こえる。
「あ、あぁ、ごめんごめん。で、どうなの? わかってるの?」
少しだけトーンを落としたところでリタの声の通りのよさはあまり
変わらなかった。

「え。えっと……なんとなく」
照れ笑いをしているような声。

ほほー。
そうか、そうか。色気ゼロ女と思ってたけど、さすがにわかってたか。
頷きながらも、動悸が早くなってきたのは気のせいだ、気のせい。

「“なんとなく”なんて怪しいなぁ。前から思ってたけど、パステルって
恋愛方面疎いみたいだし、端から見ててハラハラする時あるんだよね」
「うーー、確かに恋愛方面は得意じゃないけど……」

「でしょ。じゃさ、具体的に言ってみてよ。どうやったら赤ちゃんできるか」

再び、ドアに頭突きをしそうになる。
「具体的に」ってなんだよ!
「具体的に」ってことは、このままだとパステルが
あんなことやこんなことを口に出しちまうってことか!?
待て待て待てーーーーーっ!
おれにも心の準備ってもんがっ……!

おれが人知れず悶絶していると、パステルのさわやかな声が聞こえた。

「もー、リタったら! いいじゃない。とにかく、世間の男の人は
“オオカミ”だとしても、クレイやトラップは違うもん。絶対大丈夫なの!
だから安心してってば」


そぅっとドアから離れ、おなかを押さえてる手に力を入れる。

今のおれがしなければならないこと。
それは……。

おなかの本を一刻も早く、ぜってー見つからねぇところに隠すこと。

そう判断して、慌てて周りを見回そうと振り向いた瞬間、
下からのっしのっしと上がってきたオーシと目が合った。

「おう! ちょうどっ……むごっ! むごごご!」

リタといい勝負のでかい声。
おれは慌ててオーシの口を塞ぎながら引きずるようにして、
階段を一気に駆け下がる。

一階についた瞬間、二人の体勢がくずれて倒れこむ。
オーシはおれの手を払い、顔を真っ赤にして怒鳴った。
「トラップ! おめぇ何の真似だ! 事と次第によっちゃ、このオーシ
黙っちゃいねーぞ」
「シッ!」
なんとか上体を起こして、人差し指を口に当てつつ、もう片手でおなかから
本を取り出す。
「オーシ、これはおれからの友情の証だ。何も言わず受け取って
今日のところは黙って帰ってくれ」
「……ッ!! こ、こいつはっ……!」
受け取った瞬間からオーシの目線は本の表紙に釘付けだった。
「トラップ、悪かったな、どなったりしてよ。
おれは今おめぇとの友情を永遠に誓うぜ」


二階でドアの開く音がする。
「トラップなの? なんかあったの?」

おれがオーシに目配せをすると、オーシは慌てて本を同じようにおなかに入れ
立ち上がり、階段の上からぴょこんと顔だけ出したパステルに
気持ち悪ぃくらい愛想のいい笑顔を振りまいた。
「おぅ、パステル! 大声出してすまなかったな。急にネズミが出てきたもんで
ちっとばかしびっくりしただけだ。じゃあ、おれはこの辺で」
ひらひらと手を振りながら、別の手はしっかりとおなかを押さえ
後ずさりをしていくオーシは明らかに怪しいオヤジだった。
が、パステルは何の疑問も持たず
「そっかー。時々出てくるんだよね。びっくりするよ、あれは」
と言ってから、「じゃあね〜! 気をつけてねー!」と笑顔で手を振った。

……こういう時はほんと鈍感で助かるぜ。

そうして、おれは消えいくオーシの背中を見ながら心の中でつぶやいた。

“アデュー……。ムチムチねーちゃん達……”




〜エピローグ

時は経ち、ギャンブルよりはクエストをやってる時間が長くなった頃、
おれは、あの時にはわからなかった「なんかわかんねーけど、むかつく」原因を自覚し、
ふとした瞬間にあいつを抱き締めたい衝動にかられるようになった。

そんな時決まってあいつの声が鮮やかに蘇る。

「クレイやトラップは違うもん。絶対大丈夫なの!」


そのお陰で、なのか
そのせいで、なのか

未だにおれはオオカミになりきれずにいる。


Fin.


posted by うみ at 19:55| Comment(2) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
そうかそのせいでトラップはオオカミになれないのね…と妙に納得してしまったり(笑)
相変わらず面白い&更新早めですね(尊敬)
携帯の画面をみて顔がニヤけて仕方なかったです(笑)
しかしリタの大胆発言と得したオーシに爆笑でした。
いつも笑いをありがとうございますm(__)m

ではまた来ます(^w^)
Posted by ぱんち at 2006年11月15日 10:02
ぱんち様

こんばんはー!
いやいやいや。更新は早くないですよぉ〜(汗。
月イチが精一杯_| ̄|○
私も皆の更新の早さやアイデアの豊富さに
驚かされている方です。
このSSではオーシが一番役得(笑。
でもトラとオーシって妙に息が合う部分もあるから
こういう本のやりとりとかしてそうですよね。
こういう本がほんとにあれば、ですけど(自爆。
こちらこそ、コメントありがとうございました〜っ♪
Posted by うみ@管理人 at 2006年11月15日 19:48
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