2006年12月11日

[SS]スパンコール・ナイト[1]

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。





雪の季節。
この季節の夜は当然のことながら、すごく寒い。
寒くて寒くて……

ふ、ふわぁぁぁぁぁ。

だめだぁーーーー。
もう無理。眠い!
わたしは隣で同じようにあくびをしはじめたトラップに声をかけた。
「ほんとに今日見られるかなぁ」
「さーな。何? おめぇは友達信じてない訳?」
「そういう意味じゃなくて。その前に寝ちゃいそうってこと」
「今日寝たら凍死だな。言っとくけど、おめぇが寝ても起こさねーぞ」
「何よ、それー!」
そんな大して意味のない会話をする毎に白い息が闇夜に広がっていく。
ついでに言えば、簡単な布しか敷いていない上に座っているから、下からも大分
冷えが伝わってきていて、そっちもそろそろ限界が近いかも。



[1]
リタがこの話をしてくれたのは猪鹿亭に昼食を食べに行った時。
わたし達に食事を出しながらこんなことを言い出した。

「今日のこの感じだと、久々に“スパンコールナイト”になるかもしれないよ」

“スパンコールナイト”?
初めて聞く言葉だったから、オウム返しで聞こうとしたら
先にクレイが口を開いた。
「あぁ、それさっき女の子達が言ってたやつかな。なんか今日の夜、皆で見よう
って言われたんだけど」
「それそれ! さっすが、クレイ。こういう時は女の子が放っておかないよね」
通じ合ってるみたいだけど、わたしには全く見えませーん。
そんなわたしの反応を見て、リタは苦笑した。
「あ、そっか。ごめん、ごめん。パステル達が来てからまだ一度もないんだから、
まずは説明しないとね」

そう言ってリタが教えてくれたのは、シルバーリーブの知る人ぞ知る現象。
数年に一度、冬のある条件が整った時の夜にしか見られないらしくって、それが
見られる日を“スパンコール・ナイト”と呼ぶのだそう。そのある条件という
のが「雪が降りそうな程すごく寒い」、「でも晴れている」、「湿度がある」
なんだって。
今日はそれがバッチリ揃いそう、という訳。
で、その現象が一番よく見えるのが、シルバーリーブの入り口を出てすぐの丘の
上みたい。
そんなピンポイントな気象条件がいつ起こるかなんて前もってはわからないから、
観光客も来ないし、地元の人達で密かに楽しんでるんだって。

肝心のどんな現象なのかってことを聞いたら、にっこり笑って
「それは見てのお楽しみ」
と言われてしまった。
けど、それがどんな現象だろうと「数年に一度」「地元の人だけで楽しんでる」
なんて言われちゃ、見ないと損な気がしてきちゃうよね。

「で、クレイはそれを見ようって誘われたんだ」

わたしが言うと、クレイは頭をかきながら「みたいだな」と頷いた。
ふーん、そっかぁ。
せっかくだからパーティ皆で見たかったけど、約束したんだったら
当然そっち優先だもんね……。
ん? ってことは。
「もしかしたら、トラップも?」
トラップの親衛隊も当然誘ってるよね。
そう思ったんだけど、トラップは興味なさそうな顔で
「あー、そんな話もあったな。でも、さみぃし、くれぇし、めんどーだから
断った」
だって。
確かにね。
ただ寒い中待つなんて、トラップの性に合わないもん。
つまりはわたし達と見る気もない、と。
んじゃ、キットン、ノルとこじんまりと楽しもうかな。
なーんて、一人で考えてたら、

「あああああ!」

と、突然キットンが大声をあげたからびっくり。
「な、何?」
「思い出しましたよ! さっきからその名称聞いたことあるなぁと思ってたん
ですが、薬草百科に載ってるんですよ。“スパンコール・ナイト”の日に近くで
採った薬草は養分がつまっていて貴重だ、って。
こうしちゃいられません。さっそく出掛けなければ。ノル、もし用事がないよう
でしたら一緒に行ってくれませんか? 数年に一度ですから、いっぱい採って
大八車に積みたいので!」
どこで息継ぎしてるんだろうと思うくらいにまくしたててしゃべるキットンの
勢いに、ノルもただうんうん頷く。

あらららら。
一緒に観る人、いなくなっちゃったってこと?

そう思っていたら、リタが声をかけてくれた。
「ということで、せっかくの初イベントだから、パステルと観たいなと思った
んだけど、どう?」

リタのこういう時の言い方やタイミングってほんと絶妙。
後一瞬でも遅かったら、きっとわたしは「寂しい」っていうのがバレバレな表情
になっちゃってたと思う。
普段男の子と接することの方が多いから、こんな時、ほんと女友達っていいなぁ
って思うんだ。

横で聞いてたトラップは
「け。色気のねぇ組み合わせだな」
なんて毒づいてたけどね。
(その後、すかさずリタに運んできたお皿で頭をゴンッとされてた。まったく……)

こうして、わたしはリタとその夜一緒に出かける約束をしたんだ。




ところが。
キットンとノルが慌しく出かけた後、夕ごはんを食べに再び猪鹿亭に出向いたら、
リタがさっきとは全然違う格好でわたしを待っていた。
いつものキリッとしたおダンゴじゃなく下の方で髪を無造作に2つに結って、
マスクをして、上にはこれでもかっていうくらいセーターやらカーディガンを
もこもこ着込んでいて……。
これって、もしかして。
「リタ、風邪ひいたの?」
わたしが問いかけると、熱でうるんだ瞳をさらにうるませ
「ごべんで」
と、ものすごい鼻声の返事。昼とは別人!

あ、多分さっきのは「ごめんね」って言ったんだと思う。
この先も全部鼻声のままだと何言ってるかわからないから、普通の言葉で書くね。

「お昼の時もぼーっとするなぁって思ってたんだけど、うたた寝したらその後に
みるみるひどくなっちゃって……。ほんとごめんね」
「謝らなくていいから。ちゃんと寝てて! 風邪ひどくなっちゃうよ」
わたしがリタの背を母屋の方へ向けて押そうとしたら、リタは思いかけず
力を込めてその場に居座った。
「でも! せっかくだもん。やっぱりパステルに“スパンコール・ナイト”を
観て欲しいよ!」
「そんなこと言っても、リタの今日の体調じゃ絶対無理! リタが今日外出
したら、わたしが怒っちゃうよ」
「うん、でも……」

そんなわたし達の会話が聞こえたらしいクレイは、いつもの押し付けがましく
ない自然な笑顔で
「あぁ、そしたらさ、おれ達と一緒に見る?」
と言ってくれた。
んでもねー。
無理無理無理。
親衛隊の皆さんのつきささるような視線やこそこそ話に耐えながら座ってる
なんて、わたしにはできないよ。

わたしがさりげなく「知らない子もいると気を使っちゃうから遠慮しとくよ」と
断ると、リタはトラップの方を向きながら、突然手をパチンと叩いた。
「わかった。だったら、明日のランチ、パーティ全員一食分タダにするから、
トラップにパステルの付き添いしてもらうって話ならどう?」

すると、それまで無関心そうだったトラップが目をキラリとさせた。
「一食分? ふっ、あめぇな。おれ様の大事なギャンブルタイムを削るってこと
なんだぜ? ギャンブルやってたら、ランチ一食分以上は稼げるからなぁ」
「そんなに稼げたら今頃あんた大金持ちのはずじゃない?
……ま、いいよ。わかったよ。じゃあ、ランチ一食の夕食一食ならどう?
しかもビール付!」
すかさずトラップが親指をパチンと鳴らす。
「よし、のった!」
「ちょ、ちょっと、リタ! トラップ! 何言ってるの!」
「んだよ。二食分まるまる浮くんだぜ? 財政担当としてはちっと喜んでもいい
くらいじゃねーの?」
「だって……。リタ、こんなことまでしなくていいのに!」
「いーの、いーの。どっちにしろ、この埋め合わせは何かしなくちゃと思ってた
とこだから。その位しても見る価値あるものだし、それをパステルに見せて
あげたいんだ」

うぅっ。リタってば。
二食分浮いたことより何より、その気持ちがすごく嬉しい。

わたしは感謝の念を表すべくリタにぎゅっと抱きついた。
リタは「風邪うつるからだめー!」って言ってたけどね。

トラップは一人「おし、決まり!」と満足そうな笑みを浮かべ、ルーミィに
「おい、明日はいくらでも食っていいってよ」なんて言うもんだから、それまで
何の話をしてるのか理解してなかったルーミィも喜ぶこと、喜ぶこと。

そのルーミィ達、起きてたら連れて行こうと思ってたんだけど、残念ながらと
いうか、やっぱりというか、ちょっとやそっとじゃ起きないぐらいに熟睡
しちゃっていたので、二人で出掛けることにした。

[2]へ続く


posted by うみ at 19:24| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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