2007年01月11日

[SS]乾杯は2回

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。







「ガヤガヤ」としか言いようのない騒がしさ。
元々猪鹿亭は騒々しいとはいえ、年の最後の今日は楽しく酒を飲んで過ごしたいやつらが集まって半端ねぇことになっている。
立ち飲みの奴も大勢。
狭い中で男は腹を揺らし、女は胸を揺らして腹の底から笑い合っている。

そんな中、リタのキープの甲斐あっておれらはいつものテーブルに座っていた。

「ぱーるぅ、さっきのおにくあしたもたべれう?」
いつもこの時間にはぐっすりのルーミィも、今日は周りにつられて未だテンションが高い。
「今日のお肉は特別だから、多分無理だなぁ。来年また食べようね!」
隣のパステルは周囲に負けないよう声を張って答えつつ、乾杯に備え、次々とコップにビールやジュースを注いでいる。

キットンが「今日のお肉と同じニオイがするキノコなら知っていますよ。ただし、食べるととんでもない味ですけどね!」と言いながらいつものキットン笑いをしていても、今日ばかりはキットンの声の大きさも気にならねぇ。

「こんなにうるさいんじゃ、カジノの方が静かなくらいだな」
おれがパステルに近づいて話しかけると、条件反射のようにキッとにらむ。
「まさか、こんな日までカジノに行くの!?」
「だってよ、今日は特別に普段より当たりやすくなってるってぇ話だぞ。
行かねぇ方がもったいねーよ」
「はーあ。年越して来年になってもトラップのギャンブル好きは直りそうにないなー」
「ま、誰かさんの方向音痴は来年になっても間違いなく直らないけどな」
「またそれを言うーーーっ!」
パステルがお決まりのように右手を振り上げる。


そこへ突然の鐘の音。


その瞬間、喧騒が止み、聖なる音だけが鳴り響く。
響き終わった後には今まで以上の声の重なりがうわっと耳に入る。

「おめでとう!」
「おめでとう!」
「今年もよろしくな!」
「仲良くやろうぜ!」

あちこちで交わされる声と同時にグラスを合わせるカチンという音で店内が満たされる。

パステルは慌てて振り上げた右手を降ろし、グラスを持った。
「じゃあ、私達もカンパッ……。あーーっ、ルーミィ!」
パステルの声にパーティ一同がルーミィを見やると、ルーミィがグラスを持ち上げそこない、中のジュースを派手にぶちまけていた。
「ごめんなしゃぁい……」
当のルーミィはトレードマークのぽよぽよ眉(と、うちのマッパーが呼んでいる)を八の字にしながらしょげている。

にわかにパーティの動きが激しくなる。
いち早くクレイがマントの裾でテーブルを拭き(マントが泣いてるぞ)、
パステルはハンカチでルーミィの洋服を拭いてやり、
ノルはそんなルーミィの頭を「気にするな」といった風にぽんぽんと触り、
キットンは冷静にグラスに再びジュースをつぐ。
シロは下に滴り落ちたジュースをペロペロとなめていた。
長年パーティをやっていると、何も言わなくても役割分担ができるらしい。

おれ?
おれはその間に人知れず、パステルのグラスにおれのグラスを小さくカチンと合わせた。

今年もこの仲間で過ごせる幸せに
今年も隣にこいつがいてくれる幸せに

乾杯、と心の中でつぶやいて。

グラスを目の前に戻したところで、パステルと視線が合う。
「ちょーーっと! トラップ、何一人で関係ないって顔してるのよぉ!」
「そのとーり。ルーミィのジュースこぼしたこととおれは関係ないじゃんか」
「仲間でしょ!」
「へいへい」
と言いつつ、乾杯の終わったビールを一気に流し込む。

「あーーーーーーーっ!! 乾杯まだなのにぃっ!」
「トラップ! こんな時くらい、もうちょっと協調性をもてよ」
「まったく。後数秒がなぜ待てないんですかね〜」
「トラップずるいお!」
さっきまでしょげていたルーミィまでが攻め立てる。

「へん。また注げばいーじゃんか」

皆の冷たい視線を浴びながら、手酌でビールを注ぐ。

「仕方ないなぁ、もう。じゃ、落ち着いたところでもう一度」
パステルがクレイを促す。
「えーっと、じゃあ……」
クレイが照れくさそうに皆を見渡す。

「今年も皆仲良く、ケガせず……とは言ってもかすり傷くらいはするかもしれないけど大怪我することないように、でもちょっとずつでもレベルアップしながら……」
「長ぇよ」
「トラップ!」
「……ゴホン。えーっと、とにかく、今年もたくさん冒険しよう! 乾杯!」
「カンパーーーーイ!」

カチン
カチン
カチン

いくつものグラスとグラスが交差する音。
これ以上ないってくらい幸せそうな顔をしてるあいつ。

今はまだこの笑顔をこの仲間に向けているけど、来年は別の男と
乾杯してんじゃねえだろうなぁ。

そう思いながら横目で見ると視線に気づいたのか
「何?」
と聞いてきた。
「方向音痴も変わらねーけど、色気のなさも変わらねーなー」
おれがニヤリとしながら言うと
「乾杯終わった直後に言うことがそれ?! もう、ほんとにトラップも
変わんないんだから!」
と、プンプンしながら、勢いをつけてグラスを傾けて一気に飲み干している。

あー、変わんねーよ。
おれのこの性格は。
それからおれの気持ちも、な。

だから、おめぇも方向音痴も色気のなさもそのままでいろよ。

そんなことを思いながら二杯目のビールを飲み干した。

Fin.


posted by うみ at 22:18| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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