2005年06月10日

シチューの勇気2

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。


[2]

「あにやってんだよ」
そういうおまえが何やってんだ…と自分に突っ込みを入れながらも
もう声かけちまったもんはしょうがねえ。
パステルは手で顔をぬぐいながらも、こっちを向いた時は笑顔だった。
こいつ、これで泣いたのがバレてないとでも思ってんだろうか…。
ま、おれの目の前で泣かれる方が困るからいいけどよ。
「…ちょっと急に料理したくなっちゃって。
あっ、もしかして起こしちゃった?」
まさか「扉の音聞いてからずっとすぐそばにいました」なんて
言える訳がねえし。おれはとっさに
「いや…腹減って起きた」
と言い訳がましく言った。それ以上言うべき言葉も見つからなかったんで、
とりあえず近くまで寄って鍋を覗き見る。
…やっぱりシチューかよ。

でも、うまそうじゃん。
…と、言葉にするのも照れくささがあったから、おれは
手近にあった皿に無言でシチューをこんもり盛った。
「あーっ!ちょっと待って!」
慌てるパステルに、チラリと視線を投げた。
「あんだよ。おれが食っちゃいけねぇのかよ」
「え、ううん。そうじゃないけど……し、失敗したから」
「腹減ってるから気にしない」
そう言うとおれはこんもり盛ったシチューを
目の前のテーブルにどんっと置いてガツガツ食べ始めた。
別に。
これ、普通にうまいんじゃないの?
ま、パステルの料理の腕はわかっちゃいるけどよ。
ってことはやっぱり、あいつがさっき泣いてたのは、
今日のシチューとの比較じゃなく、「おふくろの味」にこだわってるんだろうな。
そうじゃないかとは思ってたけどよ。

さっきの言うべき言葉を言うんなら今だよな。
「母ちゃんの味よりお前の味の方がうめえぞ」
ってやつ。
よし、今……。
今……。

そう思ってるうちに皿のシチューを全部食べ終えてしまった。

何やってんだよ、おれはっっ!!
正直、親衛隊の食事会の時もたらふく食わされたから
腹なんか減っちゃいねえ…というか、むしろ腹いっぱいなんだけどよ、
こうなりゃもう一皿食ってやろうじゃないの!

おれが決死の覚悟で皿を手にして、いざ鍋へ!という瞬間、
あいつが鍋の前に腕を出してきた。
「ちょ、ちょ、ちょーーーっとストップ!!!」
相当慌てている。
「トラップ、それはちょっと食べ過ぎだよ。シチューなんだし、
明日食べよう、明日!」
言われなくても、食べ過ぎなのは百も承知なんだよ。
でもな、それじゃおめえを励ますキッカケ掴めないじゃんか。
……なんていう事情がこいつにわかる訳もなく。
おれは敗北宣言するしかなかった。
「ふんじゃ、そうする」

そうして、スタスタと台所の出口へ向かった。

かーーーっ!!
このまま戻ったら、おれ何しにきたんだよ。
これが最後のチャンスだよな。
今しかもうないよな。
おれは覚悟を決めて出口で振り向きざま早口に言った。

「それ、母ちゃんの味に近い」


言った。
言ったぞ。
おれは言ったと同時に階段をかけ上り(もちろん、音は立てずにな)
布団にもぐりこんだ。
いや本当は「母ちゃんの味よりうまい」って言うはずだったんだっけ。
ま、まぁいいか。
なんとなく伝わったよな。

少しして、気遣いながらも(でもこっちは結局音を立てて)上がってきた足音は
心なしか、さっきの降りる音よりも軽い感じがする……のは気のせいか?
もう一度聞こえた「カタン」という扉が閉まる音を聞きながら、おれは
数年後にあのシチュー毎日食べれるのがおれだったらな……なんぞと
くだらないことを考えながら、今度こそ眠りについた。

Fin

2分割までして掲載して
「近い」
しか言えないのかよ!

というオチですみません……。
期待した皆様、殴るならトラップを…(おい)

普段の食事の時は言えるんですよね。
「うめえ」って。
でも励ますために言うとなると、彼の中では
天より高い壁ができちゃうんじゃないかと。
私の中ではそんなイメージです…。



posted by うみ at 11:52| Comment(4) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちはー。

取り急ぎ一言の感想を。

あー、いいなぁ!
17歳くらいの男の子(しかも意地っ張り属性)ってこんなもんですよねぇ(うっとり)

パステルのお料理の腕前ですが。
ん〜と、新6巻の宴会の席で『好評だった』と言う一文があるので、やはりそこそこいいのではないかと。

パステルのお料理メモを真面目に作っていくと、野外で食べることを考慮しても、工夫がいっぱいですし。
シチューはどうだかわかりませんが、スグリのつみれスープの作り方をあとで教わろうと考えてるとこからしても、向上心はありますよね。
お袋の味、とはいえないかもしれませんが。
キットンスパイスに支えられてる部分もあるかと思いますが。

でも、改めて「おめぇの料理はうめぇ」とかなんとか、
本人に告げるとなると照れがはいるのですよね。
それでこそトラップ!(笑



わたしも身内相手しかサイトを開いたことがないので、いまだ他の方のところに書き込みする際、マナーというか、女の子テンションといささかズレた自分を感じます。
あの、そんなトラパシストも存在するので、いやもう全然問題なしかと。

ではまたお邪魔しますー。
Posted by 萌葱 at 2005年06月11日 14:49
はじめまして(^-^)yuuと申します。
この間、初めてここのサイトさんに来たんですが。。。。
うみサンが書くお話まるままアタシの思うトラパスで!!!
やばいです、ほんと。読みながらPCの前で悶えに悶えました(*´▽`*)素敵ssありがとうございますッ!!


シチューの勇気、大好きですッ(>∀<)
あぁ...へたれトラっ!!
ナイスじれじれ!!大好きじれじれ☆
いやほんと、どのお話もつぼにはまりすぎてやばいっす。。。
こぉんな良いものを読ませて頂けて幸せです☆ありがとうございます!!!


アタシは文才も絵心も無く、おつむも足りない機械音痴なので(笑)、
こんな風にサイトを立ち上げて活躍なさってるうみさまや、
トラパシストのみなさまを本当に尊敬いたします♪


これからも、うみサマのss楽しみにしています!!
ファン1号を名乗らして欲しいくらい大好きです!!
いや、すいません夢みました。あつかましくてごめんなさい。

それでは長文、乱文失礼致しましたm(__)m
Posted by yuu at 2005年06月12日 03:38
萌葱様

感想ありがとうです!!
そうそう、意地っ張り属性だとこんなんなっちゃうんですよね。
クレイだったら何のためらいもなく言えるんですが(笑

お料理の腕を本格的に磨いたのはやっぱり14歳からの2年間と勝手に予想してます(笑。お母さんが家にいて14歳のうちに本格的に料理覚える子って少ないかなーと思うので。しかし、最終的には相当うまくなりそう。失敗したって文章出てきたことないし!

では、これからもズレトラパシストでGOします!(笑
Posted by うみ@管理人 at 2005年06月12日 11:01
yuu様

わーっ、コメントありがとうございます!!
なんだか動揺してしまう程のコメントでどうしましょうっ!
おろおろ。

書く度に「こんなSSをサイトに披露してしまっていいんかい?」と後ろ向き状態
になるので、そう言ってもらえると元気もりもりになってきます!
でもファン1号だなんて!後で絶対後悔しますよ(爆
いやでもほんと嬉しいコメント感謝感謝です!

これからも「じれじれ推奨」でいくのでよろしくですー!
Posted by うみ@管理人 at 2005年06月12日 11:08
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