2007年06月05日

[SS]にゃんこな時間

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。



「にゃあ」

やっぱり、間違いなくおれが発している。
ということは、この振り返るとついているくるんとしたしっぽも
手を持ち上げるとついている肉球も
やたらに低く、地面から10cmほどしか離れていないこの目線も間違いなくおれ。


……認めたくねぇが、どうやらおれは猫になってしまった、らしい。


ちっきしょー!
どこのどいつか知らねぇが、あ、いや、正確には“なんとなくしか知らねぇ”が、
ただじゃおかねー!

とにかくまずは、あれだ。
元に戻らねぇと。
えーっと、えーっと。
あー、ノルだ。
あいつならこのおれの言葉もわかるはず。

名案を思いついたおれは、驚く客達の足の間をすり抜けカジノを飛び出して
一目散にみすず旅館に向かった。

全速力で駆けてもみすず旅館がいつもより遠い。
くっそ〜!
ようやく旅館についた時には猫なりにヘトヘトになりつつ、ノルのいそうな
馬小屋とその周辺を一通り見てみた。
が、いねぇ。
くっそぅ。
こうなりゃなんとかキットンにわかってもらって解毒剤もらうしかねぇか?
そう思ってみすず旅館に入り、階段の前へ向かった。

そびえたつ階段。
……まぁ、さっきから変だなとは思ってたけどよ。
おれ、猫は猫でも「子猫」じゃねぇか!?
一段上るにも全精力使いそうだぞ、これ。
おれは途方にくれ、遠いゴールに顔を向けた。

と。
階段の一番上に、女の足が見えた。
おれが一番記憶している女の脚ライン。
そのラインをたどっていくと子猫のおれの目線には遠慮もなくパ、パン……。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

おれがクラッときたその一瞬に、いつもより一オクターブ高い声でその足(と、パンッ……)がおれに向かって近づいてきた。
階段を降り終わるや否や、おれをひょいっと持ち上げる。

「かっっわいいーーーーーー!!!」

覗き込むようにおれを見る。

……屈辱だ。
なんでおれがパステルなんかに持ち上げられるんだ。
しかも「かわいい」なんて言われたって嬉しくなんかねぇんだっ!!

おれが憤慨の意を表そうと「フギーッ!」と声を出すと、あいつはますます顔をほころばせた。
「怒らないで。大丈夫、大丈夫。おなか空いてるのかな?
待って。今ミルクあげるね」
そう言うと、おれを胸の中で大事そうに抱え込んだ。

お? おお?
おおおおおおおおっ!!!
なんつーんだ。
貧弱なりに一応谷間なんつーもんがあったりして。
こう、子猫のおれにはちょうどいいつーか、なんつーか。

えーーーと。
こんな時でもなきゃ、できねぇことでも……。
と、おれが猫手を胸に持っていこうとした瞬間に、また持ち上げられ、
気づけば旅館の台所にあるでかいテーブルの上に乗せられていた。
人生、甘くねぇ。

「そこでおとなしく待ってるのよー! 今ミルク持って行くからね」

パステルはおれに声をかけながらも、お皿をとり、ミルクをとりと忙しい。
普段のおれだったら、そんなおめぇなんか見ちゃいねーって感心なさそうな
顔してるけど、今日はまっすぐと見ることができる。
子猫も悪いことばっかじゃねぇな。


そんなおれの思いをよそに、パステルはお皿をそっとおれの前に置いた。
「すこーしだけ温めたからね。飲めるかなぁ?」
心配そうに言いながら近くのイスに座る。
テーブルに肘をつき、じっとおれを見る。

……なんだよ。そんなに見られると照れるじゃねぇかよ……。
思わず下にうつむくと
「ミルクだめ?」
なんぞと聞く。

……わぁーったよ。
飲みゃあいいんだろ、飲みゃあ。
なるべく視線を合わさないように、チロチロとお皿を舐める。
いつもよりうめぇ気がする……のは気のせいか?
ま、まさか、身だけじゃなく心も猫になっちまったんじゃねぇよな?
不安になって一旦舐めるのをやめると妙に口の脇がかゆい。
無意識に手でその辺りをこする。
あん? これはヒゲか。

「わぁぁぁぁっ、やっぱりかっわい〜〜〜っ!」

おれの動作にパステルは目を輝かせて一人盛り上がっている。
だから、おれに「かわいい」って言うな!
おれが再び抗議の声をあげようとすると、またまたあっという間に
軽く持ち上げられた。

もしかしてまた居心地のいい谷間へ?
おれがそんな期待を抱いている間に、まっすぐあいつの顔の前に持ち上げられた。
そのままどんどんと接近してくる。
おれに向けたことのないような愛情あふれる目で。
さらに口を見れば軽くすぼめられて……いて……。

って、これってもしやナニか?
アレか?


キス、か?

途端に心臓が跳ね上がる。
子猫だろうが何だろうが、キスはキス、だよな。
パステルの唇の感触がこう伝わっちまうんだよな。


……今なら心から感謝できそうだぜ、子猫にしてくれた奴。

では、満を持して。

スゥーーーーッ。


「あーーーーーっ! やっぱりそこにいましたか。
パステル! その猫はトラップですよ!」
キットンのバカでかい声がいつも以上に響く。
「え。えええ?」
パステルはおれとの間合いを1cmに保ったまま首だけキットンの方に向ける。
「本当です。カジノじゃちょっとした騒ぎになってましたよ。
“にゃんこスプレー”をかけられたトラップが猫のままいなくなったって言って」
パステルはその説明を聞いて、再度おれと顔を向き合わせる。
「このかわいい子猫が? 嘘でしょう?」
「なにやらカジノに負けて、他の冒険者とトラブル起こしたらしいです。
で、いつものようにすばしっこく逃げていたらシューッとかけられてしまったと。
いやぁ、“にゃんこスプレー”って新製品なのでシルバーリーブの人達は
誰も見たことなくてびっくりしたそうですよ! かくいう私もこの目で見たこと
がなかったのでこれを機会にですね、」
止まらないキットンにパステルが割って入る。
「キットン! それはわかったから、元に戻す方法は?
この子猫が本当にトラップかどうかはそれを試してみないとわからないじゃない?」
「あ、そうでした、そうでした。元に戻すには右のヒゲ3本を同時に
3回引っ張ればいいらしいです」
「ふぅん。ヒゲ3本を3回ねぇ」
パステルはおれを再びテーブルに降ろすと半信半疑といった顔で
おれの右側のヒゲをピンピンピンと引っ張った。




ぬ?
ぬぉぉぉぉぉっ!

そのまま皮膚全体が引っ張られるような感触になり、そのあまりの痛さに半分
気を失いかけた。




「や、やだっ! ほんとにトラップ?!」

気づけばテーブルにつぶされた虫のように張り付いていたおれは、パステルの
すっとんきょうな声にのそっと顔だけ上げた。
ショックを受けているパステルの顔とさっきまでのパステルかと思うような
輝かしい笑顔のキットンが対照的に並んでいた。

「おお! 着ている服はそのままなんですね!
これは使えそうなアイテムです。子猫じゃないと入れないような狭いところに
入ったり、人間相手にしか襲わないモンスターに会った時に変身したり。色々
用途はありそうです」
意気揚々としゃべるキットンのセリフは全く聞いていないかのようにパステルは
横でつぶやいていた。
「あの子猫が……トラップ?」
あのな。頼むからそこまでショック受けんなって。
おれは軽くイライラしだした。
ようやく体の痛さもなくなり、そのままテーブルの上であぐらをかく。
「あんだよ。なんか文句あるかよ」
「……エッチ!」
「はぁ? おれが何したって言うんだよ」
しようとしたら、どれも寸止めだよ、ちきしょう。
「全部やったのはお・め・ぇ。おれは何もやってねぇ」
おれが半笑いしながら追撃すると、パステルは尚も何か言おうとしながらも、
結局は口をへの字にして顔を真っ赤にしながらキッチンから去っていった。

はぁ。
結局はこのパターンか。
天国から現実へ、ってとこだな。

おれが一人肩を落としていると
「でへへへへ。すいませんね。いいところで声をかけてしまって」
キットンが笑いながら、頭をボリボリとかく。
何かが空中を舞ってる気がするが、今は気にするまい。
「ぬぁーーにがいいところだ。ったく、とんだ災難だよ」
おれがぶんむくれながら言うと、キットンはさらにニヤリと笑った。
「災難ですか? あんな状態で抱っこされるなんて経験、滅多にできないですよ」
「そりゃそう……あ? おめぇいつから見てたんだよ?」
抱っこを見てたってことは、まさか全部か? 全部見られてたのか?
ってことは……
「それであのタイミングでわざと声かけたのかよ!」
「ほら、やっぱり『いいところ』だったんじゃないですか。ぐふふ。
でもああいうものは男としてキチンと真正面からぶつかっ……うぐぐぐ
何をするんですか! ぐ、苦じい〜っ!」
おれはキットンの首を軽く絞めながら、「惜しいとわかってるなら
後5秒遅く声をかけやがれ!」と心の中でいつまでもいつまでも叫んでいた。


Fin.


posted by うみ at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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