2005年07月09日

雪の降る日

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











今日みたいな寒い日は。


おれは昼寝にも飽きて、窓から外を見やる。
今にも雪が降ってもおかしくないようなどんよりした雲を見るだけで、
外の気温は想像できた。

今日みたいな寒い日は、あいつも買出し大変だろうな。

今日は確か原稿を出すついでに日用品の買い物をしてくるって
言ってたけど。
雪、降らなきゃいいけどな……。


と、窓の外の前方に、見慣れた服を着て、後ろでまとめた髪の毛を
揺らしながら、袋を抱えて走る姿が目に入った。

あーあー、そんなに急ぐと転ぶぞ。

おれがそう思ったのが合図かのように、本当にあいつは見事に
転んだ。
瞬間的に、窓枠に手をやる。

窓を開けようとしたその時に、手前からもう一人の人影が出てきた。
道に突っ伏したままのあいつに駆け寄るその姿は、やっぱりよく
見慣れた服を着て、黒髪をしていた。

手を窓から離す。
うん、そうだよな。
そういうのは、あいつの役目だ。
おれの出番じゃねえ。
大体、おれが今、窓開けてどうしようってんだ。

恥ずかしそうに笑いながら立ち上がる「あいつ」と
転がる荷物を拾ってあげながら、優しく笑ってる「あいつ」を
これ以上見ているのも何だから、おれは再びベッドに寝っころがった。

うん、ま、いいんじゃねえの。
何がどう「いい」のかよくわかんないまま、おれは納得していた。
いや、納得なんざしてもいねえけど、納得するフリをしていた。

しばらくして、階段を上がる音が二人分する。

そのうちの一人分の音がこの部屋まで来る。
「今さ、ちょうどおれが帰ってきたら、すぐ近くでパステルが転んでびっくりしたよ」
ファイターには似つかわしくない程の爽やかな笑顔でしゃべりかけてくる。
今まで昼寝をしていたとばかりに、おれは薄目を開ける。
「ふーん。大方、無意味に走って転んだんだろ」
「あー、確かに走ってたなあ」
「何をそんなに急いでるんだか」
「それは聞いてないけど……。本人に聞いてくれば?」
ま、ここは一つからかってくっか。
おれはのそっと立ち上がり、隣の部屋に向かった。

ドアを開け、机の前の椅子に座ったあいつと目が合った瞬間ににやっと笑う。
「パステル、“また”転んだんだって?」
案の定、小さくふくれる。
視線を落とすと、タイツのひざ部分が見事に擦り切れている。
「“また”って何よぉ。そんなにしょっちゅうは転んでないもん!」
そこへ床に座りながら何やら遊んでいたチビ達も加勢に加わる。
「ぱぁーるぅ、ころんだのぉー?」
「パステルおねぇしゃん、転んだデシか?」
「う、うん。ちょっと走ってたらね……」
二人(つーか、一人と一匹)に言われ、仕方なく認める。
「別にスケジュールがつまってる訳でもねえのに、走るからいけねえんだよ」
「だって……。外、すっごく寒いんだもん!1秒でも早く戻りたかったの!
ほら、まだ手すっごく冷たいよ」
そう言いながら、おれの目の前に手を出すもんだから、思わず
指先の部分を握ってみる。
おわっ!
「つ、冷てーー!!」
凍ってるかと思うぐらいの冷たさだぞ。
……ま、こんな日に外に出たら、こうなっちまうよな。

おれのハデなリアクションにルーミィとシロも駆け寄り、あいつは
二人にも手を差し出した。
「ぱぁーるぅの手、つめたぁい!」
「うわぁ、本当に冷たいデシね。パステルおねぇしゃん大丈夫デシか?」
「大丈夫…だけど、皆の手、すっごくあったかいね〜。皆の手で暖めてもらおうかな」
そう言うと右手はルーミィ達に差し出し、左手をおれの方に差し出した。
「は?」
「トラップは左の手、あっためて。皆を代表して買出し行ったんだもん。
ちょっとは労わってもらわなきゃ」
いつものおれだったら、一蹴して終わりだった気がするが、
この時はさっき窓の外から見た風景がフラッシュバックしたせいか
素直に従う気持ちになった。
「おれの手は高えぞ」
なんて一応軽口叩きながら。

「ふわぁ……。あったかーーーい」
幸せそうに力の抜けたへにゃっとしたこいつの顔を見てると。

早くこいつの手を温めてやりたいと思う気持ちと
なるべくゆっくり温めてずっとこいつの顔を眺めていたい気持ちが
交錯する。

この先、こいつの手を温めるやつが今日窓の外から見たあいつになるのか、
別の誰かになっちまうのか、今はまだわからない。
だから、せめて。
今だけはあいつを温められるおれでありたい。


「ぱーるぅ、ルーミィの手も冷たくなってきたー!」
ルーミィの声で、あいつの手はおれの手を離れ、両手でルーミィの手を
触った。
「わっ!本当だ。ごめんねー!ルーミィ!!」

結局おれの勝手な思いはあっさりと打ち切られ、
おれの手にはパステルからもらった外気の冷たさだけが残った。
でも今はその冷たい感触が嬉しかった。
「おい、パステル!今日はおれが暖めてやったんだから、今度おれが
外行った時は逆な」
何か言いたげなパステルを残し、おれは部屋を出た。


自分の部屋に戻り、ふと窓を見ると、外は雪が降ってきていた。

ゆっくりと。
ゆっくりと。

Fin


posted by うみ at 09:24| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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