2005年07月17日

依頼3(Trap Version)

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











[3]

……何言ってるんだ、こいつ。
ふざけんな。

この後のおれはほとんど無意識の行動だった。
席に向かい、パステルの腕を引っ張りあげる。
「はい。そこまで」
中断させることしか考えてなかったおれは、パステルを半ば勢いで立たせる。
「なんですか? あなたは!」
依頼人のセリフと視線で半分我に帰ったが、とっさのことで完璧な嘘は出てこなかった。
それにこいつに対するイライラも積もっていたおれは、ここぞとばかりに
半分本当のこともぶちまけた。
「おれ? こいつのエージェントだろ。あんた、自分でニセの彼女頼んどいて何言ってんの?」

それを聞いた傍らの元恋人ねーちゃんは殊勝に笑った。
「やっぱりね〜。最初聞いた時から変だと思ってたのよ。やっぱり彼女なんていなんじゃない」
……こいつにも一言言ってやらなきゃ気がすまねえ。
「あんたもな、この男がこんな芝居仕掛けてまで、あんたと別れたいっつーのに気づけ!」
ったく。
依頼人も依頼人だ。
「お前もな、最初と言ってること違うじゃねえか。何が座ってるだけでいい、だ。
これ以上何かするんだったら、追加料金いただくからな」
本当は追加料金いくら積まれたって何もさせないけどな。
おれは言い終わると、パステルの腕を掴み、直接、外の通りにずんずんと進んでいった。

ったく、マリーナめ。
だから、こいつにこんな仕事させんなっつったのに。
でも、ふと、あいつは最初からこういう展開になると想定していたような気もして、
余計に腹が立ってくる。

不機嫌なまま通りを進んでいくと、ふいにパステルがつぶやいた。
「どうしよう……。マリーナの信用つぶしちゃった……」
おいおい。
マリーナの信用のためならキスするってんじゃないだろうな。
おれは思わず立ち止まる。
「だったら、あそこでおれが出て行かない方がよかったのかよ」
出て行かなかったら……どうなってたんだろう。
おれは一瞬とてもいやな想像をしちまった。
「ま、ちょっとでもあの男とキスしたかったんだったら余計なお世話だろうけどよ」
おれが不安を隠しながらからかったら、あいつは間髪入れずに言い返してきた。
「な、何言ってるの?! そんな訳ないでしょう?」
だよな。
そうだよな。
おれはようやく落ち着きと余裕を取り戻す。
「ふーん。だったら、お礼は?」
あいつはいかにも悔しいって顔をしたが、思い直したのか素直にお礼を言った。
「……ありがとう。ちゃんとずっとついててくれてたんだね」
ふん。
「ずっとついてた」なんて誰がバラすか。
おれは目一杯お気楽に言う。
「いやーまぁ、大丈夫だろうから適当に遊んでくっかと思ってブラブラしてたら
冷や汗ダラダラのパステルちゃんが目に入ったからさあ。いや、タイミングよかったね」
おれのにやにや笑いを見て、再びパステルの顔に思いっきり「悔しい」という字が
浮かび、おれの背中を叩く。
はっはっはー。
そうこなくっちゃ。

と、ふとその手から力が抜けた。
「マリーナに謝らなきゃ……」
はん!誰が謝るか!
おれのことを「最高の見張り番」なんて言いやがったのはあいつなんだぞ。
それで仕事が失敗したんだとしたら、あいつのせいだろ?
おれは
「いや、今回はあいつが悪い」
とだけ言って再び歩き出したが、その途端後ろから声が聞こえた。
「パステルさーーーーん!」
振り向くと、依頼人の男が息せき切って走ってきて、追いついたかと思うと
ひざに手をやり、はぁはぁと呼吸を整えている。
「なんだよ。しゃべらないんなら、行くぞ」
もうパステルと関わんなよ、との意味も込めて言ってみる。
すると、
「ま、待ってください」
と、依頼人もようやくしゃべりだした。
「あの後…。ジョゼットに今回のことを一から正直に話しました。
そうしたら、彼女わかってくれました! 彼女もわたしに嘘つかれているのがいやで
意固地になっていた部分があったみたいで……。自分の気持ちを全部言ったら
“それならしょうがない”って。お二人のおかげです!ありがとうございます!!」
言い終わると深々と頭を下げた。
さらに「自分の恋愛事に他人を巻き込んでしまった自分がいけなかった」と
自戒もしていた。
そんな会話を聞いていると、おれはますますマリーナの企みに思えて仕方なかった。
あいつ、まさかここまで展開読んでたんじゃねえよな……。

おれが一人考えにふけっていると、急に依頼人がおれを見て笑いかけた。
「それに……。そんな素敵な彼氏さんがいると知らずにこんなお仕事頼んじゃって
すみませんでした。止めなくてもさすがにキスはしませんけど、
きっと気が気じゃなかったですよね。本当にすみませんでした。
今回の報酬はちゃんとマリーナさんから受け取ってください! それでは!」
一気にそう話し、手を振りながら雑踏の中に消えていった。

呆然とするおれにパステルがしゃべりかけてくる。
「よかったね〜。トラップ」
「へ? よかった?」
“素敵な彼氏さん”……じゃねえよな。
“キスしません”……でもねえよな。
しゃべりながらようやく気づく。
「……あ、あぁ、あいつらのことな」
だめだ。一瞬思考回路止まっちまった。
けど、パステルは相変わらず何にも気づいてないようだった。
「あいつらのこと、って。他に何かいいことでもあるの?」
……毎度のことだけど、気づかれないのも、それはそれで結構寂しいもんなんだよな。
「……ねえけどさ」
おれは多少含みを持たせて言ったが、あいつは既に違うことを考えていたようで、
唐突に話題が変わった。
「ねえ、トラップ。なんであの時、もっといつもみたいにスマートに嘘つけなかったの?」
我を忘れてたから、なんて死んでも言えるか。
「……あ? なんだ、そりゃ。それじゃ、おれがいっつも平気な顔して嘘ついてるみたいじゃん」
おれは微妙に話題をすりかえる。
「自覚ないの?」
「おめえ、失礼なやつだな!」
さっきのお返しとばかりにパステルの背中を叩こうとしたが、あいつはうまく
かわしつつ、上機嫌で人がごった返している市場へ向かっていった。

おまえ、また迷子になるぞ。
背中を追いかけて気づく。
結局、人に言われようが言われまいが、あいつの見張り番なんだな、おれは。

Fin


posted by うみ at 08:38| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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