2005年08月10日

ススミダス

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。









「かーーっ! やっぱタダ酒ほどうまいものはねぇな!」
おれの一言に、クレイ・キットン・ノルは一同に深く頷く。

ここはサラディーって国。
オウムになっちまったクレイを助けたら、結果的にここの王様も助けることに
なったおれ達。クエスト解決後に王様の様子を確認しに来てみたら、
これが国総出でおれらを英雄扱いしてくれちゃったんだよな。
それこそ、今日の大祝賀会はもちろん、おれらはどの店行ってもタダで
食べ放題・飲み放題!と至れり尽くせり。
こんな機会は滅多にねぇってことで、眠くなったシロとルーミィを連れて帰った
パステル以外のパーティの面々でちょいと高級なバーとやらに来ているって訳。

「おれなんか、何にも手助けした実感ないのに申し訳ないぐらいだけどな」
ずっとオウムのまま今回のクエストに同行していたクレイは、式典中から
恐縮しっぱなしだ。
「まぁまぁまぁ。いいじゃんか。大体おめぇがオウムにならなかったら
今日の酒も飲めなかったんだから、な」
「……オウムになったのも自分の意思じゃないけどな」
素早く突っ込んだクレイにキットンが笑う。
「ぎゃーっはっはっ!確かにそうですね。となると、今回の功労者はやっぱり
クレイをオウムにしたトラップですかねぇ」
「およ? やっぱ、そうなっちゃう? いや、悪いねぇ」
鼻をこすりながら言った途端、今度はクレイに拳固で突っ込まれた。
「いってぇ……。ひどいなぁ、クレイちゃんってば」

と、バーの入り口の方で少しどよめきが起こる。
客と客の隙間から見てみると、もう一人の英雄……いや真の英雄……かな、
ジュン・ケイが入ってきたところだった。

隙間からのぞいたおれと目を合わすとこちらに近寄ってきた。
「やぁ。君たちもここにいたんだね」
「どうせタダ酒飲むなら高いとこ、だろ?」
「ハハハ。なるほど」
ジュン・ケイはバーテンに注文をした後、おれの隣のカウンターチェアを
くるっと回して座った。
瞬間、妙にいいにおいがする。
風呂入ってきたのか?
……こいつって、なんかこう、時々レベル30の傭兵っていう感じがしないんだよな。

「あの、今回は色々お世話になったみたいで……本当にありがとうございました」
クレイはカウンター越しに律儀にお辞儀をしていた。
「いや、こちらこそ、普段あまりできない経験させてもらって楽しかったよ」
「明日にはもう発つんですか?」
「うん、朝早くには出ようと思う。だから君たちともここが最後かな」
それを聞いて、おれはなぜか一瞬パステルの顔が浮かんだが、声に出したのは
キットンだった。
「そうなんですか? じゃあ、パステルも呼んできた方がいいですね」
「おれ、呼んでくるよ」
とノルが立ち上がりかけた時、ジュン・ケイは手を振った。
「あ、あぁ、いいんだ、いいんだ。さっき、お風呂が一緒だったから」

お風呂が一緒?
一瞬、全員に妙な間ができた。

その間を感じてジュン・ケイはさらに慌てて手を振る。
「あ、あぁ、ごめん。どうも君たちには油断しちゃうようだな」
「それは、つい油断してパステルとの仲を言ってしまったってことですか?」
キットンがずばり核心をつく。

おれは軽く頭が混乱する。
あのパステルが?
鈍感でお子様のパステルが?
あいつがジュン・ケイに熱あげてたのは気づいてたが、
それは憧れみたいなもんだとばっかり……。
……一緒に風呂?
いや、待てよ。
あいつがお子様なのをいいことに、レベル30の力を持って無理矢理なんてこと……。
そこまで考えると、おれは呻くようにつぶやいた。
「それとも何か? パステルの同意なくそういうことしたとか言わねぇよな?」
おれの言葉に残りの皆も顔がこわばる。

「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ。わたしの話を聞いてくれ」
ジュン・ケイはそこまで言うとカウンターから横に乗り出して、小声になった。
「わたしは……実は女なんだ」

女?
また一瞬、全員に妙な間ができる。

「ええええええええええ?!」
その間を破って一人バカでかい声を出したのは無論、キットン。

でも、おれはなんとなく納得できた。
さっきの妙ないいにおいとか、ダンジョンでつい寄りかかって寝ちまった時の
妙な寝心地のよさ……とか。
うん、なるほどな。
女なのか……。
じゃあ、それこそパステルにとっちゃ憧れ以上の対象にもならねぇよな。
いや、そんなこと、おれには関係ねぇけど。

キットンの大声に素早く人差し指を立てて「しっ」と言った後、
ジュン・ケイは見事なウィンクをした。
「そう。だから、お風呂が一緒になるのも不自然じゃないんだ。
なんなら後でパステルに聞いてもいいよ。
ただ、この世界でやっていくには女ってばれない方が楽なんでね。
できればこのことは内緒にしておいて欲しいんだ」
「もちろんです。でもおれはかえって尊敬しますよ」
我らのリーダーがすかさず、びしっと答える。
こういう時のクレイはさすがだ。
「ありがとう。……それにしても」
思い出すようにジュン・ケイがにっこりと笑顔を浮かべる。
「君たちは皆、本当にパステルが好きなんだね。わたしが事情を説明する直前の
皆の顔、本当に恐かったよ。どんなモンスターより、ね」

おれ……いや、おれ達は決まり悪くそれぞれ視線を逸らしたが、
そんなおれ達を見て、ジュン・ケイは笑いを止めた。
「いや、大事なことだよ。今回、行動を一緒にしていて、冒険に必要なのは
レベルよりも仲間だってことを再認識したところだからね。君達の仲のよさは
何よりの武器だと思うよ」
そこまで言うと、カクテルの最後の一口を一気に流し込んだ。
「さて……と。お風呂上りのノドも潤ったし、明日も早いから、
わたしはこれで失礼するよ」
そう言うと、ジュン・ケイはカウンターチェアから優雅にすっと立ち、
バーテンにさりげなくチップを渡した。
「じゃあ、皆、元気で。明日の朝も会えたら会おう」
と手を上げたので、おれらは半ば呆然としたまま、つられて手をあげてみたものの
その時にはもう、背中を見せて消えていった。

「女性とはね……」
消えていった場所に視線が固定されたまま、手もまだ中途半端にあげたまま
クレイがつぶやく。
「全然気づかなかった」
ノルも未だにびっくりしている。
「まぁ、1つ間違いないのは、例え女性であろうとも
このバーにいる誰よりもかっこいい、ってことですね」
キットンが自嘲気味につぶやくから、おれはすかさず言い返した。
「へん。男はな、かっこいいとか悪いとかそんなんで決まるんじゃないの」
「じゃあ、何で決まるんですか?」
「そりゃ、おめぇ、ハートだろ、ハート」
おれがどんと胸を叩くとキットンは心底あきれたような視線(目、よく見えないけど)
を投げてよこした。
「それも完全に彼女に負けてると思いますが……」

けっ。
けっ。
そりゃな、人格者とか、そういう視点で見ればだな、ちょっとだけ負けてるかも
しれねぇけどな。
でも多分、どっちが本気であいつを守ってやれるかっていうとだな……
ん? 何考えてるんだ、おれは。
酔ってきたか?

おれは小難しいことを考えるのはやめて、キットンの口にグラスを近づけた。
「キットン! おまえ、飲み足りねぇんだよ。ほら、飲んどけ、飲んどけ」
「うぐぐ……何するんですか! 強制はよくないですよ、強制は」
ジタバタするキットンの足がノルに当たると、
ノルはぎりぎりなんとか座っていた小さいカウンターチェアのバランスをくずし、
「うわっ」と動かした手がちょうどビールを飲もうとしていたクレイの顔に
見事に当たり、クレイが「ぶわっ」と叫んだ拍子にグラスが落ちて、割れた。

「おーまーえーらーっっ!!」
クレイが叫んだところで、バーテンから声がかかった。


「あんた達、今日は英雄ってことでいれてるけどね。明日から来ないでくれよ。
店の品位が下がるから」


結局、その一言ですごすごと店を退散した。
(正確に言うと、おれは抵抗したが、残りに羽交い絞めにされて外に連れ出された。)

「ここで1つまた確定したのは、あのバーで一番かっこ悪いのは
わたし達だったってことですねぇ」
キットンが夜空を見上げて言う。
おれとクレイとノルと。
一同はため息と共に深く頷いた。

そして、おれは酔いが大分回ってきた頭でぼんやりと考えていた。
ジュン・ケイまでとは言わねぇが、もうちっと男をあげなきゃな。

何の為に、かはまだよくわからねぇが。


Fin


posted by うみ at 07:23| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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