2006年02月03日

ファーストプレゼント[2]

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。












[2]
で、今日はその2月5日なんだが。

なんなんだ。
なんでなんだ。

おれは賭博場を出たところでしばし立ち尽くしていた。

なんでこんな時に限って、いつもはかすりもしねえ賭け事に勝っちまうんだよ。

ん? 何が「こんな時」なんだ? 別にこんな時も何もないよな。
うん、喜ばしいことだ。
明日これを元金にもっと増やしてもいいしな。
なんなら、ずっと欲しかったパチンコ強化グッズ買っちまうって手もあるか。

おれはそう考え、とりあえず町の中心に向かった。


服を売っている店の前を通る。
服なんてサイズわかんなきゃ話になんねえしなぁ。

アクセサリーを売っている店では数人の女が品定めしているのが見える。
あんな店、まず店に入るのがありえねえ。
質屋だったら入れるけどな。質屋のおっさんには顔割れてっからなぁ。


……って、おれは何考えてるんだよ!
おれが行くのは道具屋だろ、道具屋!
頭をぶるぶると振った後、ふと右を見ると、そこは文房具屋だった。

そういやあいつ、この間ちびたエンピツで何やら一生懸命書いてたな。

そう考えながら気づくと、店の中に入っていた。
シルバーリーブ老舗の文房具屋らしく、ペンコーナーは思った以上に色々なものがならんでいた。竜の木彫りがされている年代ものから、頭の部分にスライムのキャラクターがついたもの、宝石が埋め込まれている高価なものまで。

……で? おれは何をしようってんだ?
大体、あいつの好みなんて知らねえし、もしかしたら好きでチビたエンピツ使ってるのかもしれねえし。

おれがペンコーナーで眉間にしわを寄せて立っていると、店番をしていたおばさんに鋭い声をかけられた。
「あんたその格好は盗賊だね? まさかうちを狙ってるんじゃないだろうね?」
田舎になればなる程、この手の偏見は多い。
「はん、盗賊だからって、なんでも盗むと思うなよ。おれらが盗むのは、もっと豪華で高尚なお宝で、こんなペンやらノートやら盗んだって何にもなんねえよ」
おばさんは尚も目を細めて聞いてくる。
「ふぅん。じゃあ、この店には何しに来たんだい?」
何しに?
おれは勢いづいて言った。
「そりゃ、買い物に来たに決まってんじゃん。他に何があるっての? おばちゃんよ」
その勢いに押されて、ようやくおばさんも普通の態度に戻ったようだった。
「あぁ、そりゃ悪かったね。ペンが欲しいのかい? 自分用? それともプレゼント?」

それは、その、なんだ。

「……自分用」
もう引き返せない状況になっているとはわかっていても、あがいてみた結果がこれだった。
そこからはおばさんの言われるがまま。
一番お勧めという、真っ黒でごつい万年筆を買ってしまった。
今日の持ち金全部出すくらいの値段で。

いやいや、これでいいんだ。自分で言ったじゃないか。
恋人でもない女にプレゼントする必要なんかないんだって。
おれは万年筆が欲しかったんだ。
そうだ、そうだ。


そう言い聞かせながらそのままみすず旅館に戻ると、クレイとキットンがちょうどパステルにプレゼントを渡したところのようだった。
二人が渡したのはタオルだった。
本当に大したもの買えてないな……という突っ込みはさすがにその場では抑えておいたが、当のあいつはかなり喜んでいるようだった。

そのパステルと目が合う。
おれはにやっと笑った。
「言っとくけど、おれはなんもねえぞ」
「別にそんなつもりないもん」
ぷっと頬をふくらました後、クレイとキットンの方へ向かいなおして、満面の笑顔でお礼をしていた。

タオルごときであんなに喜ぶんだったら、おれなんかタオル100枚ぐらい買えたぞ。
って、まぁ、関係ないけどな、おれには。

[3]に続く


posted by うみ at 09:53| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年02月02日

ファーストプレゼント[1]

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。



また、今回のSSは外伝Vの頃が設定になっています。
もちろん、読んでなくても話はわかりますし、ネタバレもほとんどないですが、
まだ未読でこれから読む予定がある方は、読み終えてからの方がいいかもしれません。








[1]
つまり、あれだ。
悪いのはクレイだ。

事の起こりは2週間ほど前。
はじめてのクエストを終えたおれらは、気づけばみすず旅館を定宿にし、猪鹿亭の常連となっていた。肩からぶら下げているのはもちろん、ピッカピカに輝く「レベル1」の冒険者カード。
で、その時はその猪鹿亭に全員揃っていて、冒険者カードの見せ合いをしていた。もちろん、今までだってお互いのカードは見ているし、今更見せ合っても新しいものなんぞなんもないくらいシンプルかつ停滞中のカードなんだが、だからこそ、時々取り出してやらないと自分達が冒険者ってこと自体、忘れそうになるってところが本音。
かーっ、情けねえ。

で、だ。
しょうもないことをあーだこーだと言い合ってたら、クレイがふとパステルのカードに目を留めて、言いやがったんだ。
「あれ? パステルの誕生日って2月5日なんだ。もうすぐじゃん」
と。

あーあーあ。
女の誕生日を知っちまうとどうなるかなんて、全然考えてないんだよな、やつは。
いや、知っていても言うのがクレイでもあるか。
おれもさっきちらっとそうは思ったけど、口には出さなかったのに。
ったく。

案の定、パステルは「実はそうなんだ」と照れながら言いつつ、わかりやすい程嬉しそうな顔をしている。
こいつとのつきあいはまだそんなに長くはないが、こいつは本当にわかりやすい。
妙に大人びているマリーナだとか、クレイに言い寄る色仕掛け女とかばっかりを見てきたおれにとっては、このわかりやすさは驚異的にさえ見える。
いや、ま、そんなことはどうでもいいか。

その後の展開もご想像通り。
次の日辺りだったか、クレイがおれとキットンに声をかけてきた。
「パステルの誕生日にさ、皆でちょっとしたものをあげないか? おれ達貧乏だから一人だと大したものあげられないだろ? だから、皆で少しずつ出しあってさ。
……と言っても3人で出し合っても大したもの買えないだろうけど」
この律儀さがモテる要素でもあるんだろうな。ご苦労なこった。

「ぎゃはははは。確かにそうですねえ。でも大事なのは気持ちですから、大丈夫じゃないですか?」
「そうだよな」
クレイとキットンが既に3人合同プレゼントを前提に話しているので、おれはぴしゃりと言い放った。
「悪いけど、おれ、パス」
「え?」
二人の視線が一気に集まる。
「あまい、あまい、あまい、あまい! そんな仲良しごっこしてるから金が貯まんねえし、クエストにも行けねえんだよ。おれにはそんなムダ金はない」
クレイは明らかにむっとしていた。
「そんなこと言うなよ。仲間だろ」
「だからって、金出してまで祝うかどうかは別。……なんなら、その金おれに預けて増やすってプレゼントなら協力するけど」
おれはそう言うと、二人の冷たい視線を感じながら、そのまま部屋を出た。

大体なんでおれが、恋人でもなけりゃ情報収集に協力してくれる女でもないやつにプレゼントあげなきゃいけねえんだ、と思いながら。

一方で、クレイに誕生日を言われた時のあいつの嬉しそうな顔をなんとなく思い出していた。


……な?
つまり、悪いのはクレイなんだ。

[2]へ続く
posted by うみ at 15:04| Comment(2) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年12月22日

感謝の夜

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。












「さっむーーーい」
一気に入ってきた冷気に思わずつぶやいて、慌てて窓を閉じる。
結局、冷気と一緒に入ってきた喧騒だけが耳に残ってしまった。



今日は年に一度の感謝祭。
当然、シルバーリーブも町をあげてのお祭り騒ぎなのだけれど、うちは相変わらずの貧乏パーティ。お祭りに出ても、何かを買ったりする余裕はないから、どうせなら逆にバイトして稼いじゃおう!ってことになった。
クレイはレストランのウェイター、トラップは収穫祭に合わせたギフトの配達、キットンは古本バザーの売り子、ノルはお祭りの会場作り……と、皆それぞれ臨時のバイトで外出中。
さすがにルーミィとシロちゃんはバイトは無理だし、かと言ってお祭りの日に部屋でおとなしくしてる訳もないので、みすず旅館のおかみさんにお祭りに連れていってもらった。おチビさん二人分のお小遣いぐらいなら出せるしね。


で、その間久々に一人になれるわたしが、部屋で原稿書きに集中する。
……はずだったのだけれど。


隣からも何一つ物音が聞こえず、ベッドからのかわいい寝息すら聞こえない無音の部屋が思ってもみない程寂しくて、さっきから全然筆が進まない。
思えば、両親が亡くなって冒険者になろうって決めてから、ずっと誰かがわたしのそばにいてくれた。ケンカすることもあるけど、いつも賑やかで。そのおかげで、一人でいることの寂しさを感じずにいたんだなって、改めて気づく。

あまりにも心細いから、ちょっとだけ窓を開けてみたんだけど、寒さと外の賑やかな話し声や歌声が尚更「わたしは一人なんだ」って思わされて、この世界に自分が一人ポツンと残されているような感覚に襲われて、余計に悲しくなってきてしまった。
ふいに普段は思い出さなくなってきた両親の優しい笑顔が浮かんできて、気がつくと涙があふれていた。
こんなはずじゃ、なかったのに。







「ひっ! ひぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

グラッ、ドタッ、バスッ!

突然、首筋に冷たい何かがあたり、びっくりしたわたしは思いっきりイスに座ったままひっくり返ってしまった。
な、な、何? 一体今何が起こったの?
目をパチクリさせると、赤毛の不機嫌そうな顔が上からのぞきこんでいた。

「おめーな! 驚きすぎなん……ん? なっ、なんだよ。泣くほど頭打っちまったのか?」

トラップは、わたしの涙に気づくと、少し慌ててイスごと起こしあげてくれた。
実際は、涙出るほど頭を打ったというより、逆に出ていた涙も引っ込むぐらいびっくりしたんだけどね。
でも、泣いてた理由を話すのも照れくさいから、トラップには申し訳ないけど、その話題には触れずに話した。

「もう〜っ! びっくりしたじゃないっ!」
「こっちだって、そこまでびっくりしたことにびっくりだ」
「だって、全然気配しなかったよ!」
「そりゃーな。おれを誰だと思ってるんだ」
まぁ、そうなんだけどね。
「で、さっき首がひやっとしたんだけど、何したの?」
わたしが聞くとトラップは目の前で両手をひらひらさせた。
「おれはなー、さっむい外でずーっと配達してたの。最後なんてノックするのも痛いほどだったんだからな。ったく、おめぇは部屋でぬくぬくしてていいよな」
「そっか。お疲れ様! でも、もっと時間かかると思ってた。早かったね」
トラップはそれには答えず、ベッドにどさっと身を投げ出した。
「疲れたから、寝る」
つぶやくように言うと本当に目をつぶってしまった。

さっきの冷たい感触はトラップの手だったんだ。
本当に、お疲れ様。
目を閉じたトラップを見ながら、わたしはつぶやいた。
そして。
一呼吸してから、原稿に向かった。
不思議なくらい、心穏やかに集中して。




それから一時間もたった頃。
階下でにぎやかな声が聞こえてきた。
これはおかみさんとおチビ二人だな。
そう思ったわたしは、階段を降りて迎えにいった。
「ルーミィ、シロちゃん。いい子にしてた? おかみさん、今日はありがとうございます」
わたしが言い終わらないうちに、ルーミィはわたしの膝に突進してきた。
「これ、買ってもらったぉー」
あちゃー! 大きなあめ玉をわざわざ口から手に出してるぅ〜。案の定、手はベタベタ。その横でシロちゃんもご機嫌そう。
そんなルーミィとシロちゃんをながめながら、おかみさんはにっこりした。
「二人共、いい子だったよ〜。わたしも、小さい子とお祭りに参加するなんてないから、楽しかったさ。また、いつでも声かけておくれよ」
うわぁ。預けるのが迷惑だったかもしれない……って思ってたから、この言葉は本当に嬉しい! おかみさんがみすず旅館のおかみさんでよかった!って改めて思っちゃう。
わたしがもう一度お礼を言って、ルーミィとシロちゃんと共に階段を上がろうとしたら。
おかみさんがふいに思い出したように声をかけた。
「そういやさ。トラップは今日何か用事でもあったのかい? やたら急いで走り回って、終わった後も走って旅館に戻るのを見たもんだからさ」
え?
「用事も何も、帰ってすぐ寝てますけど……」
わたしがキョトンとして言うと、おかみさんは「あぁ、そうかい、そうかい」と大きく頷いた。
そして、わたしの目をまっすぐ見ると
「パステル。あんた達は本当にいいパーティーだね。この出会いを大事にするんだよ」
とだけ言って、部屋に消えていった。

えーーーっと。
それって、つまり。


わたしが考えていると、次々とみすず旅館に入り口に声が聞こえてきた。
「ひやー、本当に今日は寒い!」
「キットン、バザーはもう終わったのか?」
「早く切り上げたかったので、安めの値段でどんどん売りさばきました。うひゃひゃひゃひゃっ。そういうクレイこそ、早くないですか?」
「客がちょっと落ち着いてきたから、早めに上がっていいかって聞いたら大丈夫って言うからさ。で、ノルは?」
「おれ、1回顔出して、また会場解体する頃に戻る」

三人は階段で突っ立ったまんまのわたしを見つけると、照れくさそうに笑った。
「ま、なんだかんだ言ってもお祭りですからね」
「そうそう、お金はなくても楽しまないと」
キットンとクレイの言葉を聞いて、ルーミィとシロちゃんは目を輝かせた。
「もう1回おまちゅり〜?」「お祭り、皆で行けるデシか?」
わたしは二人ににっこりと頷いた後、ノルにルーミィのベタベタの手を洗ってくれるように頼んだ。
クレイが
「あ、トラップがまだか?」
と聞いてきたので、わたしは上を指差して
「もう帰ってきて寝てる。今起こしてくるから先に行ってて」
と言って、今度こそ階段を上っていった。



さっきのおかみさんの言葉が蘇る。
ほんと、わたし、ばかだ。
一人になっただけで一人ぼっちの気分になったりして。
わたしには、いつだって皆がいる。

さっきとは別の涙が胸から湧き出そうになるのをこらえて、部屋に戻った。

ベッドには、いっつもいじわるばっかりして、口が悪くて、お調子者で……
でもいざって時にはちゃんと考えてくれてる我らパーティの盗賊が静かに寝ていた。
さっきの手、もう温まったかな。
そうっと、トラップの手に手を重ねてみる。


と、突然、その手が引っ張られて、バランスをくずしたわたしは、トラップの上に見事に倒れかかった。
すぐ横に満足げなトラップの顔。
「相っ変わらず重いなー。でも、その分やっぱあったけぇー!」
しっ、失礼なっ!!
「人を布団代わりにしないでよっ!というか、寝てたんじゃないの?!」
わたしはなんとか上半身を起こして、枕を投げつけた。
「1階であんだけ皆で騒いでりゃ、起きるっつーの」
右手で枕を防御しながら、左手で大きく伸びをする。
「ふんじゃ、ちょっくらお祭り見てくるか」
そう言って起き上がってドアに向かったトラップにわたしもついていく。
だけど、トラップはふとドアの前で立ち止まって、顔をドアに向けたまま片手をわたしの方に突き出した。
「なーんかまだ手が温まらねーんだよ」
さっき手を重ねた時はもう温かかったよ……って思ったけど、今はトラップの言葉を素直に受け取ろう。
そう思ったわたしは、差し出された手を握った。

わたしを真っ先に一人ぼっちから解放してくれてありがとう。

一度もこちらを見ずに歩き始めたトラップに心の中でささやいた。



Fin
posted by うみ at 21:16| Comment(3) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月19日

三度目は 2

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











ようやく立ち上がれる程度におなかが落ち着きお店を出たわたし達は、クレイと別れてトラップの家へ向かった。そうそう、ノルもトラップのところへ泊めてもらえることになったんだ。さすがに家の中は人数ぎゅうぎゅうでみすず旅館と同じく馬小屋なんだけどね。
なので、熟睡したルーミィをおぶってもらって隣を歩く。
ふふっ。
トラップの家を出た時にはいなかったノルがいるのってなんか不思議。
相変わらず、会話はほとんどないんだけど、でもやっぱりノルがいると落ち着くなあ。

……なんて考えながら歩いていたら、前を歩くトラップとトラップの肩にのってるシロちゃんの会話が風に流れてかすかに聞こえてきた。

うーーーん。本当にかすかだから「好き」とか「願い事」とか「幸せ」とか
単語しか聞こえてこないんだけど、きっと居酒屋で話してくれなかったトラップのお願い事の話に違いない。
気になるーーーーー!!

わたしは駆け寄って後ろから割り込んだ。
「ねぇ! 今、お願い事の話してたでしょ」
「どわっ!!」
なんだか異常に驚いているトラップは放っておいて、シロちゃんに聞いてみた。
「トラップのお願い事ってなんだったの?」
「シロ!」
トラップが何か言いたそうにしてたけど、その口を塞いでシロちゃんを待つ。
「トラップあんちゃんはまだ決まってないみたいデシよ」
へ? そーなの?
トラップの口を塞いでた手も思わず緩む。
「ぶはぁっ! ったく、何するんだよ。ほらな。シロがああ言ってるんだ。
シロが嘘つくと思うか?」
ううん、思わない。と、わたしはぶるぶる頭を振る。
「だろ? でもよ。今、決めた」
「え?」
「もし、次にホワイトドラゴンに会ったら」
突然、真剣な眼差しになって見つめられる。
「おまえが……」
な、何? なんなの?
よくわからないけど、なんかどきどきしてくるじゃない。
とまどってるわたしの顔を見ると満足そうに満面の笑みを浮かべて、言った。

「毛糸のパンツ履かなくてもおなかが冷えねー体になるようお願いしてやるよ」

「なっ、なによそれー!」
どきどきした自分がばかみたい!
うぅー。トラップに毛糸のパンツ見られたのは一生の不覚かも。
大体なんで、トラップの願い事がわたしなの?!
「なんで皆みたいにパーティ全体のお願いじゃなくてわたしだけなの?」
そう聞いてみると、なぜかトラップは顔を赤くして怒り出した。
「なっ、別に他意はねーよ!」
怒るのはこっちのはずなのにー。変なの!
「他意って?」
わたしが素朴な疑問を聞くと、さらに不機嫌な顔をして
「知るか!」
って言ってずんずん歩調を速めて行ってしまった。

うーん、これはあれだな。
あのトラップは怒ってるんじゃなくて、照れてるんだ。
考えてみたら、毛糸のパンツは失礼とはいえ、ちゃんとわたしのこと心配した上でのお願い事だったもんね。きっと今はわたしが目の前にいたから、そう言ってくれたんだろうな。
ほんとトラップの優しさってわかりにくいんだから。

そう思って、シロちゃんをのせ肩をいからせながら歩いている後ろ姿を見ると、なんだかちょっと愛おしくみえてくる。
わたしも大分成長したなー。
トラップの気持ちがこんなにわかるようになったんだもん!

よし! トラップに気持ちちゃんと汲み取ったよってこと、伝えよう。
そう思ったわたしは、もう一度トラップに追いついて前にぐるっと回り、
いからせてる肩を下に落ち着かせるようにトラップの両腕を掴んだ。
「ね。そしたら、わたしは『トラップが幸せな人生送れますように』ってお願いにしようかな」
そう言うと、トラップは目をぱちくりしたまま、固まってしまった。
と、唐突だったかな…と思っていると、
「幸せっていうのは人によって感じ方が違うからできないお願いなんデシ。ごめんなさいデシ」
とシロちゃんに申し訳なさそうに言われてしまった。
シロちゃんが謝ることないよーって言おうと思ったら、いつもの状態に戻ったトラップに一瞬早く口を挟まれた。
「ほーら、なーにとっちらかったこと言ってんだよ」
その口ぶりにクリクリな目でキョトンとしたシロちゃんが口を開く。
「でもトラップあんちゃんもさっき同じようなお願い事言ってたデシよ。その時は……」
トラップってば、まだ話し途中のシロちゃんを肩からおなかに移動させてぎゅっと抱きこむと(っていうか、窒息しないかしら? あの状態……)、慌てて走り出した。
「あーーーーっと、おれ、ノルの寝床の状態を先に確認してくらぁ!じゃな」
って。

何がなんだか。
同じようなお願い事?
誰かの幸せな人生を願ったってことなのかな?
うわー! そんなのトラップらしくない! 絶対ない!
あ、でも意外と家族思いだから家族の幸せかな。

わたしには家族がいないから、そのお願いはもう無理だけど。
いつかそんなお願いをしたくなる素敵な相手が見つかるといいな。
消えていくトラップの背中を見ながら、そんなことを考えていると、後ろから追いついたノルと目が合った。
ノルはいつものように優しい目でにっこり笑ってくれた。
背中にはぐっすり寝ているルーミィの幸せそうな顔がちょっとだけ見える。
うん、でもこのパーティが楽しいからまだまだそういうのはいっか。
なんだかちょっと気持ちがほっこりして、わたしはまた歩き出した。

Fin
posted by うみ at 09:16| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年10月18日

三度目は 1

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。






※このSSは「新1巻」のエンド直後の設定です。




ここはドーマの居酒屋「ゴウシの酒屋」。

クレイに誘われたのがきっかけでドーマへの里帰りについていったわたし(とルーミィ&シロちゃん)。そこでゆっくりするはずが、いきなりトラップが誘拐されたところから始まって、シロちゃんがお母さんと再会してわたし達とはさよならすることになって……でも、最終的にはまた一緒にいられることになって……と、気づいたら目まぐるしい冒険に巻き込まれてた。
色々あったけど、今は全て収まってこうして居酒屋でゆっくり食事をしているんだ。

それにしても、冒険が終わってゆっくり味わう食事っていうのは本当に最高!
しかも。
目の前にたっくさん並んだ食事もほとんど皆の胃の中に消え失せ、もうこのままベッドに連れて行って〜!というぐらいおなかいっぱい。
貧乏パーティがなぜそんな食い倒れ状態になっているかって?
実は、頑張ったご褒美ってことで、トラップのじーちゃんのツケで食べていいということになったんだ。
だから、トラップはもちろんのこと、皆遠慮せず食べる、食べる。
かくいうわたしも「食べれる時に食べる」という冒険者精神にのっとって……なんてかっこいい言い訳をしながら嬉々として食べたんだけど、さすがにもう限界。
ルーミィなんて、テーブルに突っ伏して幸せそうな顔してすっかり寝ちゃってる。


「くっ……。おれとしたことが……。デザートまで到達できなかった……」
うめくようなトラップの声に、クレイはげんなりした顔で答える。
「これだけ頼んでデザートまで注文しようとしてたのか?」
「あったりめーだろ。次いつこんなに食えるかわかんねーんだからさ! ましてやデザートなんて普段食べれねーもん食べずに終わるなんてもったいねー!……でももうさすがに無理……」
普段おなか一杯食べられないってことが前提になってるのが、間違ってないんだけど悲しい。
本当にいつになったら貧乏脱出できるんだろ、わたし達。
願って叶うならいくらだって一生懸命お願いするんだけどな。

……ん? お願い?

そうだ!!
一気にお金持ちになる方法あるじゃない!
「今度ホワイトドラゴンに会うことがあったら“毎日いっぱい食べれるほどの大金持ちにしてください”って言えばいいんじゃない?」
なかなかの提案と思ったんだけど
「ぶわぁーか! 人生で3度もホワイトドラゴンに会える奴いねーよ! 大体な、“毎日いっぱい食べれるほどの大金持ち”っていうのがなんか微妙すぎて情けなくないか?“毎日いっぱい食べれない大金持ち”なんていねーじゃん!」
と、トラップに一蹴されてしまった。
な、なによ!私だって好きでこんなこと思いついた訳じゃないもん!
みんな貧乏が悪いんだーっ!……って、この考えが10代の女の子の考えることじゃないよね……。しくしく。
と一人嘆いていると、
「でも、二度あることは三度あるとも言うし、今度会ったら何をお願いするか考えておくのも悪くないかもしれないな」
さすがはリーダー。ちゃんとクレイは話にのってくれた。
「じゃあ、クレイだったら何をお願いする?」
わたしが聞くと、
「冒険で一番恐いのはやっぱり仲間が死ぬことだから、“仲間を死なないようにしてください”ってのはどうかな?」
と返ってきた。確かにね。もう前のノルの時のような悲しいことはいやだもん。
それはいいかも。
わたしが頷くと、トラップがこっちを向いてにやっと笑った。
「ってぇーことは、モンスターにどんなに内臓ブスブスやられても死なないってことだよな。数年もしたら、おれ達皆、ピンやゾロみたいになってたりして」
ぎえぇぇぇぇ!!
ピンやゾロには悪いけど、この年でそんなことにはなりたくなーいっ!
「やだやだやだやだ!絶対反対ーーー!」
私が手をあげて主張すると、今まで黙って聞いていたノルがぼそっとつぶやいた。
「おれはやっぱり家が欲しいな」

「お、いいね」「うん、いいんじゃないか」
珍しくパーティの意見が一致する。
そうよねー。拠点となる家は欲しいわよね。うん、わたしも賛成!
ん? ってことは。
「トラップもお願いするとしたら家をお願いするの?」
念のため聞いてみたら
「おれ? おれだったらしねーよ。家くらいそのうちギャンブルでいくらでも
建てられるだろうしよ」
だそうで…。まったくどうしてそこでギャンブルが出てくるのか理解不能だわ。
「じゃあ、わかった。“世界のお宝を手元に”って言うんでしょ?」
そう言ったわたしにトラップは人さし指をちっちっちと振った。
「んなもん、自分で見つけてナンボだろ」
「ふ〜ん、じゃあなんなの?」
「教えてやんねー」
ここまできて、その返答はないでしょう!わたしは頭にきてトラップに思いっきり
イーッて顔をした。すかさずトラップはベーッて顔で返す。
まったく、もう!!

わたしとトラップが喧嘩をはじめたのを見てクレイが割って入る。
「なんにしたって、あくまでも次にホワイトドラゴンに会ったらって仮定の話だからなぁ」
するとテーブルの足元でこれまたウトウトしていたシロちゃんが「ホワイトドラゴン」の名前に反応して目をぱちっと開けた。
「他のホワイトドラゴンデシか? 次の集会のときにクレイしゃん達を紹介できると思うデシよ」

一瞬、全員で諸手をあげて喜びそうだったけど「次の集会」って50年後なのよね、確か。
今考えた願い事なんか全然役に立たなさそう……。たはは。
それにね。きっとわたし達のことだから、実際次にホワイトドラゴンに会ってもオロオロしちゃって願い事なんて1つに決められなくて「ちょっとタンマ!」って言ったら、それがお願い事になっちゃったり……なんてことになりそうだし。
宝くじと一緒で実際当たらなくても「当たったらどうしようかな」って考えるのが
楽しいんだよね。
うん、だから、シロちゃんとシロちゃんのお母さんに会えた幸運だけでもう充分!
三度目はなくてもいいや!
……もちろんあったら、嬉しいけどね。

<2>
posted by うみ at 11:19| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月28日

唯一の相談

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











おい、キットン。
ちょっといいか。

いや、まぁ、大したことじゃねぇんだけどな。
一応パーティで一番年長ってことで聞きてぇんだけどよ。

あーーー……。
ある知り合いのヤツの話なんだけどな。
なんか、そいつが同じパーティの女が好きだ…ってぇーんだよな、その知り合いがさ。
でもよ、その女がえっれー鈍感で色気も全然なくて、そんなこと気づきもしないんだと。
それどころか、いつまでも「皆で仲良くがいい」っていうオーラを出しまくりで
言い寄るなんてとてもじゃないけどできねぇっつーんだ。
その知り合いが。

でだ。
そいつは女に自分の気持ちも知ってもらいたいんだか、どうすればいいかって
聞くんだよ、その知り合いが。


え? その女、パステルに似てる?
そりゃあ……冒険者の女にありがちなタイプなんじゃねぇの?
知り合いの話なんだから、知るかよ。


……んで、どうよ。
キットンならどうする?

え? おれ?
おれだったら……

って、それがわかんねぇからキットンに聞いてるんだろ!

男の方はどういうヤツかって?
……器用。有言実行。男気がある。女に優しく、男に厳しい。
筋を通す。えーー、つまりはそれなりに男前。
クレイみたいなタイプ?全然違ぇーよ。今の聞いてなかったのかよ。
だったらおれかって?
……いや、違うけどよ。何せ知り合いの話だからよ。
でもまぁ、わかりやすい例えならそう思ってもらってもいいぜ。

で、そうだとしたらどうなんだよ。


え? 無理? 当分このまま?
おめぇ、それじゃ何の相談にもなってねぇじゃんか!
っていうか、さっきから何だよ、その薄気味悪い笑いはよ!

自分のことすら相談しないのに知り合いの相談なんかするから、だと?
はっ、そりゃ、俺には悩みなんてねぇからな。
細けぇこといちいち気にすんなよ。


…ん?
敢えて言えば「玉砕覚悟でぶつかるのみ」?

……それができりゃ苦労しねぇんだって。
あ、いや、こっちの話。

だぁら、なんなんだよ!その笑いは!!
ったく、キットンなんかに相談したのが間違いだった。
あぁ、気分悪りぃ。
カジノに行ってくるわ。




……パタン




……危なかったぜーーー!!
あやうくキットンにバレるところだった。

やっぱり思い切ってぶつかるか、当分このまましかねぇのか……。
いや、待てよ。
キットンに相談ってところが間違いだったかもしんねぇ。
口数少ねぇけど、ノルの方が親身になってくれそうだもんな。
よし。

あ、いた。

おーーーーい、ノル、ノルーーーーッ!ちょっといいかー?



Fin
posted by うみ at 09:26| Comment(4) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月08日

On your mark 3

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











次の日。
全員合流してエベリンの町を出ようとすると、ゲート近くにマリアーノの姿があった。
マリアーノはおれ達集団を見つけると、おれには全く視線を寄こさず
一直線にパステルに近づいて、パステルが「マリアーノ?」とつぶやいた瞬間に
オーバーな程両手を広げてから、抱きしめた。
「パステルちゃん、久しぶりーーーーっ!!おれのこと、覚えててくれたんだぁ!」
「ふぁ!」
マリアーノの胸からくぐもったとまどいの声が聞こえる。
おれは容赦なくマリアーノの頭を殴った。
昨日の賭けの勝敗、もう忘れたんじゃないだろうな、こいつは。
マリアーノはさすがにパステルを離し、両手で頭を抱え込んだ。
「痛いなー。いきなり何するんだよー。
パステルちゃん、ここタンコブできそう。キスしてくれれば治るかも」
「治りません!」
さすがのパステルも今度は間髪入れずに拒否をしたところで、
ようやく他のメンバーもマリアーノの顔を見て気づいた。
「あ、あぁー!あなたはクエスト村のスタントスにいたナンパなお兄さんですね!」
とキットンがストレートに言うと
「あぁ!あの時はお世話になりました」
とクレイはご丁寧にお辞儀をし、それにノルも続いた。
「おしぇわになりあしたぁ」
下の方でルーミィもぴょこんと頭を下げていたが、あいつは多分
よくわかってないでやってんだろう。

このまま和んだ雰囲気になりそうだったので、
おれはマリアーノをちょっと離れた場所にひっぺがし、すかさず釘を刺した。
「おめぇ話が違うだろ!」
すると、マリアーノはにっこり笑って言い放った。
「おれは昨日、勝った時の話しかしてないよ。
負けたらあきらめる、とは言ってないからさ」
「おめぇなぁっ!!」
おれが勢い込んで文句を言おうとすると、手をホールドアップしたまま、
昨日の、あの挑むような目線を再び投げかけてきた。
「とにかくさ、まずは君が自分でレースにエントリーしろよ。
パステル争奪戦ってレースにさ。レース部外者にあきらめろなんて言う資格
はないぜ?」
「ほっとけ」
くだらないことを言い出したマリアーノを置いて仲間の場所へ戻とうとすると、
きょとんとしたまま遠巻きに眺めていた当のパステルが、近づいてきた。
「どうしたの? 何の話?」
「関係ねぇよ」
おれの言葉を聞いて、マリアーノが後ろから
「うん、今の状態じゃあ、関係ねぇ、かもねー」
と、意味ありげに言いやがるので、今度は蹴りを入れようと足をあげたら
身軽にさっと体を引き、少し離れたパーティに向かって大声で話しかけた。
「それじゃあ、おれはこの辺で。皆さん、元気で!」
そう言ってクレイ達に手を振った後、近くのパステルににっこり笑いかけた。
「パステルちゃん、今度会う時は二人だけでもっとゆっくり話そうねー!!」
そして言い終わるやいなや、パステルに向かってまたもや投げキッスをしていった。
おれはそれを空中で掴むと、地面に叩きつけ、
パステルのショートソードを勝手に抜き取り、地面にぶっすりと刺してやった。
「ちょっとー!刃がかけちゃうでしょうっ!何するのよ、もうっ!」
ぷんぷん怒ってるあいつにショートソードを地面から抜いて返す。
「……で、何の話だったの?」
自分に関係があるとは100%思ってない顔をして、また聞いてくる。

エントリー、ねぇ。
してみたところで、あんまり勝ち目はねーけど、不戦敗はしたくねぇ。

「ちょっくらレースに参加することにした」
おれは首の後ろで両手を組んで、仲間が待つところへ向かった。
パステルもついてくる。
「え? 何? 何のレース?」
「教えらんねぇ」
「わかった! またギがつくものでしょ」
「およ。よくおわかりで」
「ほんと懲りないんだから!」
「おぉ、懲りてたまるか」
そこまで話したところで、クレイ達と合流したから、最後のおれのセリフは
誰にも聞かれないまま宙に浮いた。

「……今度の勝負が一番本気出すかもしんねぇな」

Fin.
posted by うみ at 11:16| Comment(2) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年09月05日

On your mark 2

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











確かにカジノの裏手は見事な原っぱだった。
夜も更け、人気もない。
ただ、今日は満月だったから、明かりがなくてもそこそこ見通しはあった。
その見通せる範囲ぎりぎりのところに立っている一際大きい木のシルエットを
マリアーノが指した。
「あそこのさ、大きな木。あれに最初にタッチした奴が勝者だ。OK?」
「あぁ」
「君もさっきビール飲んでたけど、おれもその前にビール一杯飲んでるから
条件は同じだ」
「あぁ」
「でも」マリアーノは月明かりの下でにやりと笑った。
「パステルちゃんのことなんとも思ってないなら、
わざと負けてくれてもいいんだぜ」
「悪ぃけど、勝負事はいつでも本気でやるって決めてんだ」
おれは素っ気無く言って、首を少し回してみた。
うん、ほとんど酔いはまわってねぇ。

「じゃあ、いくよ。3つカウントダウンだ」
無言で頷く。
「3」
集中し、
「2」
木を見据える。
「1……0!」

その言葉と同時に飛び出した。
走り出すと心臓が思ったよりドクドク聞こえる。
くそ。やっぱアルコールのせいか。
通り過ぎる風の隣にはぴったりくっつくようなマリアーノの気配が伝わる。
勝た……せるかっ!
おれは無我夢中で土を蹴った。
一歩でも早く。
一歩でも前へ。
心臓のドクドクという音が自分からあふれ出そうになった瞬間に
目の前の木に手が触った。
そのまま木にもたれるようにして倒れこむ。
はぁはぁと荒い息が止まらない。

勝負は?

おれが酸欠気味の頭をのろりと上げると木の少し手前でマリアーノが
大の字になって寝転んでいた。

「はぁはぁ。ああーー、久々に全速力で走ったな。はぁっ。
うん、君の気持ちもよーーーくわかったし、楽しかったよ」
マリアーノは真上を見たまんま、なぜかとても上機嫌そうだった。
おれは少し落ち着いて、木にもたれて座る。
「はっ。だぁら、勝負事は本気でやるってだけだ」
「うん、わかってる、わかってる」
はぁ、とまた一息入れるとマリアーノはのろのろと立ち上がり、
おれに近寄った。
「トラップ。また、いつか勝負しよう」
立ち上がる時についたのか夜露で濡れた手を差し出した。
おれも夜露で濡れた手を拭くことなく、その手に掴まって立ち上がった。
結果的に握手をする形となる。
「次はくだらないモンかけるなよ」
「そうかな。一番真剣に勝負してくれるもの賭けたつもりだけど」
そう言うと握った手に力を加えてきた。
「……ってぇぇぇぇ!」
「負けたんだから、こんくらい許してよ。そんじゃ、元気で」
そう言って、ぱっと手を離すとどちらが勝ったのかわからないくらい
意気揚々と引き上げていった。
おれはと言うと……心臓の鼓動が収まらず、その後再び芝生の上で
寝転んでいた。

あいつ……なんでおれと勝負なんて言い出したんだろう。
考えながら見上げた空では、星がいつまでも瞬いていた。

[3]へ続く
posted by うみ at 08:27| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月29日

On your mark 1

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。













「じゃあ、アンドラスんとこ行くか」
夕食を食べ、パステル達をマリーナのところまで見送った後、
そう声をかけてきたクレイに向かって、おれは背を向けて手をひらひら振った。
「何言ってんの、クレイちゃん。おれの夜はここからが本番だってーの」

「トラップは一度、今までの掛け金と戻ってきたお金を冷静に引き算してみたらどうかと思うんですけどねぇ」
キットンのつぶやきも気にせず、おれはエベリン一のカジノの方向へ悠々と向った。
町のはずれにあるが、よく当たるっていう評判だ。多少遠くても行く価値は充分ある。
しかも今夜こそ、大儲けできる気がすんだよなー。へへへ。




くっそーー。
ここ、ぜってぇイカサマやってんに違いねぇ。
そうじゃなきゃ、あそこでまさか4連続も赤は来ねぇだろ。

数時間後、掛け金もなくなったおれは、カジノの片隅にあるカウンターで、
残ったわずかなお金で買った一番安いビールを飲みながら一人ごちていた。


「えーー?! ほんと? 何でもいいの?」
ふいにおれの後ろでテンションの高い女の声が聞こえた。
振り向くと見事なプロポーションと、それを見せつけるかのような露出度の高い服を着た化粧の濃い女が、隣の金髪男にしなだれかかっていた。
ったく、人がイライラしてる時に。
「うるせぇなぁ」
おれがつぶやくと、金髪男が肩までかかった髪をかきあげながらこっちを向いて口を開いた。
「女性に縁がないからってそんな言い方していると、ますます…」
と言いかけたところでかきあげた手がぴたっと止まる。
「あれ? 君、どこかでおれと会ってない?」
「は?」
「あー!そうだよ、そうそう。えーーっと、パステルちゃん!
パステルちゃんへのおれの投げキッスを踏んづけた人だろ?」
そこまで言われて、思い出した。
「パステルちゃん」なんてヘンな呼び方して、しかもやたら軽いヤツ。
クエスト村とかっていうところの雇われラスボスだった……
「「名前、なんだっけ?」」
おれと同時に向こうも全く同じことを聞いてきた。
「ははは。お互いしゃべったのはほんの僅かだったもんな。
おれはマリアーノ・マクレオ。君は……確かダンジョンで出会いそうな名前
だったと思うんだけど……」
「……トラップ」
「あぁ、そうだ。ごめん、ごめん。おれ、女の子の名前しか覚えないんだよねー」
最初のすました態度はどこへやら、やたら親しげに話しかけてくる。
隣の女は明らかに不機嫌そうだ。
「マリアーノってばぁ!何でも好きなの買ってくれるっていう話の続きぃ〜!」
「あぁ、ごめんな。じゃあ、これあげるから、何でも買いなよ」
マリアーノは、そう言ってどこからか札束を出し、女の胸の間に挟みこんだ。
「うっわぁ!すご〜いっ!!さすがマリアーノ。愛してるわっ!」
女は途端に最上の笑顔を浮かべて、マリアーノに濃厚なキスをしてから、
もう用はないとばかりに足早に人ごみに消えていった。

「おめぇ、金持ちだったんだなぁ」
おれが感心して言うと、マリアーノはカウンターに肘で寄りかかって
また髪をかきあげた。
「いやいや、今日はなぜかよく当たってさ。
特に4連続赤が当たった時は、たんまりいただけたよ。
やっぱ、あそこで赤に挑戦するのが男ってやつだよね」
「……女の相手やめてまで、おれと話したいことってそれかよ」
「なに急に不機嫌になってるのさ。さては、今日芳しくないんだな?
ま、いいさ。話ってのは他でもない、パステルちゃんのこと。
あれから、ボーイフレンドできたのかなと思ってさ」

それがおまえに何の関係があるんだ……と言いたかったが、ぐっと抑えた。
「あんなチンケな奴にできる訳ねぇだろ?」
「ふぅん……。じゃあ、君もまだモノにしてないんだね」
「おれは関係ねぇ」
おれがそう言ってビールをぐっと飲むと、マリアーノはおもしろそうに
覗き込む。
「関係ねぇ、なのかー。おれの投げキッスあんなに丁寧に踏んづけたり、
パステルちゃんを抱き寄せた時思いっきりデコピンしても、関係ねぇ、なんだー」
はぁ、もうこいつと話したくねぇ。
そう思ったおれはビールを最後まで一気に飲み干し、カウンターを離れようとした。
「おっと、待ってよ」
マリアーノがおれの腕を掴む。
「おれと勝負しようよ」
「はぁ? 今日はもう掛け金ねぇよ」
腕を振り払おうとするが、思ったより強い力で掴まれている。
「いや、カジノじゃないよ。足の速さ」
足の速さ?
突如出た提案におれは思わず振り向く。
「そう、いわゆる徒競走。君はシーフなんだろ? だからちょうどいい勝負になると思うよ。で、おれが勝ったらパステルちゃんを本気で口説く。
ああいう純情タイプ、実は一番のタイプなんだよねー」
振り向くんじゃなかった。
「んなの、つきあってられっか」
おれが再び去ろうとすると、さっきまでの軽い印象が嘘のように消え、
挑むような目線をおれに投げかけてきた。
「じゃあ、不戦勝にさせてもらうよ。明日にでも本気で口説く」
何だと?
おれはマリアーノの挑戦的な視線を跳ね返すくらいの勢いで黙って見返した。

と、マリアーノはふっと体全体から力を抜かし、それまでの軽い調子に戻って
笑顔を浮かべた。
「決まり、だな。このカジノ、町のはずれにあるから裏手が原っぱなんだ。
そこへ出ようぜ」

[2]へ続く
posted by うみ at 08:33| Comment(2) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年08月10日

ススミダス

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。









「かーーっ! やっぱタダ酒ほどうまいものはねぇな!」
おれの一言に、クレイ・キットン・ノルは一同に深く頷く。

ここはサラディーって国。
オウムになっちまったクレイを助けたら、結果的にここの王様も助けることに
なったおれ達。クエスト解決後に王様の様子を確認しに来てみたら、
これが国総出でおれらを英雄扱いしてくれちゃったんだよな。
それこそ、今日の大祝賀会はもちろん、おれらはどの店行ってもタダで
食べ放題・飲み放題!と至れり尽くせり。
こんな機会は滅多にねぇってことで、眠くなったシロとルーミィを連れて帰った
パステル以外のパーティの面々でちょいと高級なバーとやらに来ているって訳。

「おれなんか、何にも手助けした実感ないのに申し訳ないぐらいだけどな」
ずっとオウムのまま今回のクエストに同行していたクレイは、式典中から
恐縮しっぱなしだ。
「まぁまぁまぁ。いいじゃんか。大体おめぇがオウムにならなかったら
今日の酒も飲めなかったんだから、な」
「……オウムになったのも自分の意思じゃないけどな」
素早く突っ込んだクレイにキットンが笑う。
「ぎゃーっはっはっ!確かにそうですね。となると、今回の功労者はやっぱり
クレイをオウムにしたトラップですかねぇ」
「およ? やっぱ、そうなっちゃう? いや、悪いねぇ」
鼻をこすりながら言った途端、今度はクレイに拳固で突っ込まれた。
「いってぇ……。ひどいなぁ、クレイちゃんってば」

と、バーの入り口の方で少しどよめきが起こる。
客と客の隙間から見てみると、もう一人の英雄……いや真の英雄……かな、
ジュン・ケイが入ってきたところだった。

隙間からのぞいたおれと目を合わすとこちらに近寄ってきた。
「やぁ。君たちもここにいたんだね」
「どうせタダ酒飲むなら高いとこ、だろ?」
「ハハハ。なるほど」
ジュン・ケイはバーテンに注文をした後、おれの隣のカウンターチェアを
くるっと回して座った。
瞬間、妙にいいにおいがする。
風呂入ってきたのか?
……こいつって、なんかこう、時々レベル30の傭兵っていう感じがしないんだよな。

「あの、今回は色々お世話になったみたいで……本当にありがとうございました」
クレイはカウンター越しに律儀にお辞儀をしていた。
「いや、こちらこそ、普段あまりできない経験させてもらって楽しかったよ」
「明日にはもう発つんですか?」
「うん、朝早くには出ようと思う。だから君たちともここが最後かな」
それを聞いて、おれはなぜか一瞬パステルの顔が浮かんだが、声に出したのは
キットンだった。
「そうなんですか? じゃあ、パステルも呼んできた方がいいですね」
「おれ、呼んでくるよ」
とノルが立ち上がりかけた時、ジュン・ケイは手を振った。
「あ、あぁ、いいんだ、いいんだ。さっき、お風呂が一緒だったから」

お風呂が一緒?
一瞬、全員に妙な間ができた。

その間を感じてジュン・ケイはさらに慌てて手を振る。
「あ、あぁ、ごめん。どうも君たちには油断しちゃうようだな」
「それは、つい油断してパステルとの仲を言ってしまったってことですか?」
キットンがずばり核心をつく。

おれは軽く頭が混乱する。
あのパステルが?
鈍感でお子様のパステルが?
あいつがジュン・ケイに熱あげてたのは気づいてたが、
それは憧れみたいなもんだとばっかり……。
……一緒に風呂?
いや、待てよ。
あいつがお子様なのをいいことに、レベル30の力を持って無理矢理なんてこと……。
そこまで考えると、おれは呻くようにつぶやいた。
「それとも何か? パステルの同意なくそういうことしたとか言わねぇよな?」
おれの言葉に残りの皆も顔がこわばる。

「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ。わたしの話を聞いてくれ」
ジュン・ケイはそこまで言うとカウンターから横に乗り出して、小声になった。
「わたしは……実は女なんだ」

女?
また一瞬、全員に妙な間ができる。

「ええええええええええ?!」
その間を破って一人バカでかい声を出したのは無論、キットン。

でも、おれはなんとなく納得できた。
さっきの妙ないいにおいとか、ダンジョンでつい寄りかかって寝ちまった時の
妙な寝心地のよさ……とか。
うん、なるほどな。
女なのか……。
じゃあ、それこそパステルにとっちゃ憧れ以上の対象にもならねぇよな。
いや、そんなこと、おれには関係ねぇけど。

キットンの大声に素早く人差し指を立てて「しっ」と言った後、
ジュン・ケイは見事なウィンクをした。
「そう。だから、お風呂が一緒になるのも不自然じゃないんだ。
なんなら後でパステルに聞いてもいいよ。
ただ、この世界でやっていくには女ってばれない方が楽なんでね。
できればこのことは内緒にしておいて欲しいんだ」
「もちろんです。でもおれはかえって尊敬しますよ」
我らのリーダーがすかさず、びしっと答える。
こういう時のクレイはさすがだ。
「ありがとう。……それにしても」
思い出すようにジュン・ケイがにっこりと笑顔を浮かべる。
「君たちは皆、本当にパステルが好きなんだね。わたしが事情を説明する直前の
皆の顔、本当に恐かったよ。どんなモンスターより、ね」

おれ……いや、おれ達は決まり悪くそれぞれ視線を逸らしたが、
そんなおれ達を見て、ジュン・ケイは笑いを止めた。
「いや、大事なことだよ。今回、行動を一緒にしていて、冒険に必要なのは
レベルよりも仲間だってことを再認識したところだからね。君達の仲のよさは
何よりの武器だと思うよ」
そこまで言うと、カクテルの最後の一口を一気に流し込んだ。
「さて……と。お風呂上りのノドも潤ったし、明日も早いから、
わたしはこれで失礼するよ」
そう言うと、ジュン・ケイはカウンターチェアから優雅にすっと立ち、
バーテンにさりげなくチップを渡した。
「じゃあ、皆、元気で。明日の朝も会えたら会おう」
と手を上げたので、おれらは半ば呆然としたまま、つられて手をあげてみたものの
その時にはもう、背中を見せて消えていった。

「女性とはね……」
消えていった場所に視線が固定されたまま、手もまだ中途半端にあげたまま
クレイがつぶやく。
「全然気づかなかった」
ノルも未だにびっくりしている。
「まぁ、1つ間違いないのは、例え女性であろうとも
このバーにいる誰よりもかっこいい、ってことですね」
キットンが自嘲気味につぶやくから、おれはすかさず言い返した。
「へん。男はな、かっこいいとか悪いとかそんなんで決まるんじゃないの」
「じゃあ、何で決まるんですか?」
「そりゃ、おめぇ、ハートだろ、ハート」
おれがどんと胸を叩くとキットンは心底あきれたような視線(目、よく見えないけど)
を投げてよこした。
「それも完全に彼女に負けてると思いますが……」

けっ。
けっ。
そりゃな、人格者とか、そういう視点で見ればだな、ちょっとだけ負けてるかも
しれねぇけどな。
でも多分、どっちが本気であいつを守ってやれるかっていうとだな……
ん? 何考えてるんだ、おれは。
酔ってきたか?

おれは小難しいことを考えるのはやめて、キットンの口にグラスを近づけた。
「キットン! おまえ、飲み足りねぇんだよ。ほら、飲んどけ、飲んどけ」
「うぐぐ……何するんですか! 強制はよくないですよ、強制は」
ジタバタするキットンの足がノルに当たると、
ノルはぎりぎりなんとか座っていた小さいカウンターチェアのバランスをくずし、
「うわっ」と動かした手がちょうどビールを飲もうとしていたクレイの顔に
見事に当たり、クレイが「ぶわっ」と叫んだ拍子にグラスが落ちて、割れた。

「おーまーえーらーっっ!!」
クレイが叫んだところで、バーテンから声がかかった。


「あんた達、今日は英雄ってことでいれてるけどね。明日から来ないでくれよ。
店の品位が下がるから」


結局、その一言ですごすごと店を退散した。
(正確に言うと、おれは抵抗したが、残りに羽交い絞めにされて外に連れ出された。)

「ここで1つまた確定したのは、あのバーで一番かっこ悪いのは
わたし達だったってことですねぇ」
キットンが夜空を見上げて言う。
おれとクレイとノルと。
一同はため息と共に深く頷いた。

そして、おれは酔いが大分回ってきた頭でぼんやりと考えていた。
ジュン・ケイまでとは言わねぇが、もうちっと男をあげなきゃな。

何の為に、かはまだよくわからねぇが。


Fin
posted by うみ at 07:23| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月28日

星降る散歩[2]

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











本当に今日は気持ちのいい日!
寒くもなく、暑くもなく、ほんのちょっとひんやりするかなっていう風が
時々優しく吹く。
上を見上げれば満天の星空。
クエストの移動中や野宿の時に、こんな星空を見ることもあるけど、
やっぱりどこかしら緊張してたりするから、こんなにリラックスして
星空をじっくり見るなんて久々かも。

……なんて、しばし浸って歩いていたら、ふいに横から声。
「何、ぼけーっとしてんだ?」
んもう!
トラップを見て睨む。
「ぼけーっとしてたんじゃなくて、星空見てたの!」
「うん、だぁら星空見てぼけーっとしてたんだろ?」
ぐっ……。
「いいじゃない!たまには星空見てぼーっとしたって」
開き直ったわたしを見て、トラップはにかにかと笑ってる。
ふんだ。
せっかくの素敵な気分が台無し!
もう、こんな奴気にしないでおこう!
そう思って、再び空を見上げたら、視界の右上の方で光が動いた。

「な、流れ星!!」
思わず叫ぶ。
「ね、ね!今あの辺に流れ星あったよね? 気づかなかった?!」
トラップの腕をとって興奮気味に訴えたんだけど、
「さぁ」
の一言。
「うわーーーっ。もったいない!お願い事できなかったぁー!!」
わたしが本気で悔しがると、トラップはあきれてるようだった。
「んな迷信まだ信じてるのかよ」
「いいじゃない。ロマンチックで」
トラップに『ロマンチック』なんてわかってもらえないと思ったけど、
意外に、トラップは少し間があった後で「ふーん」と頷いた。
うーん、わかってくれたってことかな……?
半信半疑でいると、トラップが急に
「あ!おい!流れ星!早く目ぇ閉じて祈れ!」
と叫んだ。
ええーっ?!
よくわかんないけど、とりあえず慌てて目を閉じ、お願い事をし……

?!?!

な、何? 今の?
なんかほっぺたに触った。
え? まさか、え? え? えーーーー?!

わたしが目を見開いてパニくっていると、トラップが笑った。
「今目ぇ閉じた時に虫くっつけた」

あ、一瞬トラップがほっぺたに……なんてバカなこと考えちゃった。
そうよね。そんなことある訳ないもんね。
虫だもんね。
虫……。

「きゃああああああああ!!!!」
ワンテンポ遅れて、わたしはものすごい叫び声をあげて
トラップにしがみついた。
「何すんのよおお!!取って!取って!取ってーーーーっ!!」
「……あぁ、まだ首んとこいるな」
「わーーーーっ!やだやだっ!!」
「んじゃ、じっとしてろ」
そう言われて仕方なく、声を出さずじっと立ってたら、
トラップはふいに顔を近づけ、わたしの首にふーーっと息を吹きかけた。

わたし達の横をすり抜ける涼しい風とは違う、体温を感じる風を。


「……飛んでった」
顔を近づけたまま、トラップがつぶやいた。
どうしてかわからないけど、顔がすごく熱くなったから、下を向いたまま
小さくお礼を言った。
「……あ、うん……。ありがとう……」

でもその直後、わたしから離れたトラップはすっかりいつもの調子に戻っていた。
「ふぅん。虫つけたのもおれなのに、素直じゃん」
あ、あーーーーっ!!
「そうだったーーー!!何よ、もうっ!!信じらんないっ!
なんでそんなことするのよーっ!」

まんまとわたしを罠にはめて、上機嫌なトラップはわたしより先に
スタスタと歩き出した。
「ちょっと!どんな虫くっつけたのよー!ヘンなのじゃないでしょうねー!」
慌てて追いかけながら、今頃気づいた。

トラップといる限り、ロマンチックな夜空なんて無理なんだ、って。

Fin
posted by うみ at 11:09| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月26日

星降る散歩[1]

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。




※このSSは一応「依頼」の続きとなっていますが、「依頼」を読んでいなくても
全く問題ありません。




[1]
マリーナに依頼された仕事をこなして、もらった報酬で皆へのおみやげも買った
わたしとトラップは、その後、慌てて乗合馬車に乗り込んだ。
というのも、危うくシルバーリーブに向かう最終の馬車に乗り遅れるところだったから。
トラップは今回ギャンブルする時間がないのが悔しかったみたいで、
もうちょっといたい雰囲気だったけど、冗談じゃない!
物価の高いエベリンでもう1泊なんてもったいないもんね。
しかも一人一部屋なんて、せっかくもらった報酬の残りだって全部ふっとんじゃう。

だから、無事間に合って馬車席に座った途端、安心したのと慣れない仕事をして
疲れていたのとで、猛烈に眠くなってしまって、気づいたら夢の世界へと旅立っていた。



ふと馬車の揺れで目を覚ますと
「よーくお眠りで」
と、いじわるそうなトラップの声。
あれ? もしかして、わたし、トラップに寄りかかって寝ちゃってたかな……。
ま、いっか。
気にせず、うーんと上半身を伸ばしながら聞く。
「今どの辺?」
「もう後十分くらいで着きそうだな」
そっか。もうそんな近くまで来てたんだ。
そう言えば、もう辺りは真っ暗!出発した時はまだぎりぎり日があったのに。
トラップの言うように本当に熟睡してたんだなぁ、わたし。
馬車にわたし達しか乗ってないからリラックスしちゃったのもあるのかも。


と、そんなことを考えていたら、いきなり馬車がふわっと一瞬宙に浮き、
再び地面に叩きつけられた。
「きゃあああああ!」
思わずトラップにしがみつく。
何? なんなの?
モンスターじゃないでしょうね?!
猛烈にやな予感がしたけど、大きな振動はその1回だけ。
御者のおじさんがこちらを覗き込む。
「すまないねぇ。なんか硬いモンが落っこちてたみたいで、
蹄鉄がはずれちまったようだ」
そうだったのかあ。
モンスターじゃなくてよかったー!
考えてみたら、もうシルバーリーブに近いんだから
モンスターなんかいないもんね。
……って、こういう時、モンスターじゃなくてすごく安心しちゃうのは
冒険者としてどうかと思うけど……。

安心したわたしはトラップから離れて馬車を降りる。
トラップも続けて降りてくる。
「大丈夫ですかー?」
馬の足元でしゃがんでいる御者のおじさんに声をかける。
「おぉ、大丈夫、大丈夫。……だけど、直すのにちょいと時間が
かかるから、もしお急ぎなら歩いてもらった方が早いかもしれないね」

そっかぁ。どうしよう。
わたしは振り返ってトラップに目で問いかける。
「おれはどっちでもいいぜ。歩いても二十分かかんねえだろ?」
そうだなぁ。
急いではいないけれど、今日みたいに気持ちのいい日なら
ちょっとお散歩兼ねて歩くのも悪くないかも。
そういえば、最近この辺ゆっくり歩くことってなかったし。
しかもね!
マリーナに依頼されたお仕事の時に着てたワンピース、実は報酬の一部として
もらえちゃったのだ。だから、今もそのまま着てるんだけど、ワンピースなんて
冒険者になって以来ほっとんど着たことないから、お散歩して女の子気分を
味わいたいなっていうのもあるんだ。

「じゃあ、お散歩と思って後は歩いて帰ります」
わたしがそう言うと、御者のおじさんは帽子をとって軽く頭を下げた。
「おぉ、すまないねぇ。じゃあ、もしも早く直って追いついたら
また乗せてあげるから。気をつけて歩くんだよ」
「わかりました!おじさんも気をつけてね!」
わたし達は馬車に乗せていた荷物を降ろした後、おじさんに手を振って、歩き出した。

[2]へ続く
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2005年07月17日

依頼3(Trap Version)

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











[3]

……何言ってるんだ、こいつ。
ふざけんな。

この後のおれはほとんど無意識の行動だった。
席に向かい、パステルの腕を引っ張りあげる。
「はい。そこまで」
中断させることしか考えてなかったおれは、パステルを半ば勢いで立たせる。
「なんですか? あなたは!」
依頼人のセリフと視線で半分我に帰ったが、とっさのことで完璧な嘘は出てこなかった。
それにこいつに対するイライラも積もっていたおれは、ここぞとばかりに
半分本当のこともぶちまけた。
「おれ? こいつのエージェントだろ。あんた、自分でニセの彼女頼んどいて何言ってんの?」

それを聞いた傍らの元恋人ねーちゃんは殊勝に笑った。
「やっぱりね〜。最初聞いた時から変だと思ってたのよ。やっぱり彼女なんていなんじゃない」
……こいつにも一言言ってやらなきゃ気がすまねえ。
「あんたもな、この男がこんな芝居仕掛けてまで、あんたと別れたいっつーのに気づけ!」
ったく。
依頼人も依頼人だ。
「お前もな、最初と言ってること違うじゃねえか。何が座ってるだけでいい、だ。
これ以上何かするんだったら、追加料金いただくからな」
本当は追加料金いくら積まれたって何もさせないけどな。
おれは言い終わると、パステルの腕を掴み、直接、外の通りにずんずんと進んでいった。

ったく、マリーナめ。
だから、こいつにこんな仕事させんなっつったのに。
でも、ふと、あいつは最初からこういう展開になると想定していたような気もして、
余計に腹が立ってくる。

不機嫌なまま通りを進んでいくと、ふいにパステルがつぶやいた。
「どうしよう……。マリーナの信用つぶしちゃった……」
おいおい。
マリーナの信用のためならキスするってんじゃないだろうな。
おれは思わず立ち止まる。
「だったら、あそこでおれが出て行かない方がよかったのかよ」
出て行かなかったら……どうなってたんだろう。
おれは一瞬とてもいやな想像をしちまった。
「ま、ちょっとでもあの男とキスしたかったんだったら余計なお世話だろうけどよ」
おれが不安を隠しながらからかったら、あいつは間髪入れずに言い返してきた。
「な、何言ってるの?! そんな訳ないでしょう?」
だよな。
そうだよな。
おれはようやく落ち着きと余裕を取り戻す。
「ふーん。だったら、お礼は?」
あいつはいかにも悔しいって顔をしたが、思い直したのか素直にお礼を言った。
「……ありがとう。ちゃんとずっとついててくれてたんだね」
ふん。
「ずっとついてた」なんて誰がバラすか。
おれは目一杯お気楽に言う。
「いやーまぁ、大丈夫だろうから適当に遊んでくっかと思ってブラブラしてたら
冷や汗ダラダラのパステルちゃんが目に入ったからさあ。いや、タイミングよかったね」
おれのにやにや笑いを見て、再びパステルの顔に思いっきり「悔しい」という字が
浮かび、おれの背中を叩く。
はっはっはー。
そうこなくっちゃ。

と、ふとその手から力が抜けた。
「マリーナに謝らなきゃ……」
はん!誰が謝るか!
おれのことを「最高の見張り番」なんて言いやがったのはあいつなんだぞ。
それで仕事が失敗したんだとしたら、あいつのせいだろ?
おれは
「いや、今回はあいつが悪い」
とだけ言って再び歩き出したが、その途端後ろから声が聞こえた。
「パステルさーーーーん!」
振り向くと、依頼人の男が息せき切って走ってきて、追いついたかと思うと
ひざに手をやり、はぁはぁと呼吸を整えている。
「なんだよ。しゃべらないんなら、行くぞ」
もうパステルと関わんなよ、との意味も込めて言ってみる。
すると、
「ま、待ってください」
と、依頼人もようやくしゃべりだした。
「あの後…。ジョゼットに今回のことを一から正直に話しました。
そうしたら、彼女わかってくれました! 彼女もわたしに嘘つかれているのがいやで
意固地になっていた部分があったみたいで……。自分の気持ちを全部言ったら
“それならしょうがない”って。お二人のおかげです!ありがとうございます!!」
言い終わると深々と頭を下げた。
さらに「自分の恋愛事に他人を巻き込んでしまった自分がいけなかった」と
自戒もしていた。
そんな会話を聞いていると、おれはますますマリーナの企みに思えて仕方なかった。
あいつ、まさかここまで展開読んでたんじゃねえよな……。

おれが一人考えにふけっていると、急に依頼人がおれを見て笑いかけた。
「それに……。そんな素敵な彼氏さんがいると知らずにこんなお仕事頼んじゃって
すみませんでした。止めなくてもさすがにキスはしませんけど、
きっと気が気じゃなかったですよね。本当にすみませんでした。
今回の報酬はちゃんとマリーナさんから受け取ってください! それでは!」
一気にそう話し、手を振りながら雑踏の中に消えていった。

呆然とするおれにパステルがしゃべりかけてくる。
「よかったね〜。トラップ」
「へ? よかった?」
“素敵な彼氏さん”……じゃねえよな。
“キスしません”……でもねえよな。
しゃべりながらようやく気づく。
「……あ、あぁ、あいつらのことな」
だめだ。一瞬思考回路止まっちまった。
けど、パステルは相変わらず何にも気づいてないようだった。
「あいつらのこと、って。他に何かいいことでもあるの?」
……毎度のことだけど、気づかれないのも、それはそれで結構寂しいもんなんだよな。
「……ねえけどさ」
おれは多少含みを持たせて言ったが、あいつは既に違うことを考えていたようで、
唐突に話題が変わった。
「ねえ、トラップ。なんであの時、もっといつもみたいにスマートに嘘つけなかったの?」
我を忘れてたから、なんて死んでも言えるか。
「……あ? なんだ、そりゃ。それじゃ、おれがいっつも平気な顔して嘘ついてるみたいじゃん」
おれは微妙に話題をすりかえる。
「自覚ないの?」
「おめえ、失礼なやつだな!」
さっきのお返しとばかりにパステルの背中を叩こうとしたが、あいつはうまく
かわしつつ、上機嫌で人がごった返している市場へ向かっていった。

おまえ、また迷子になるぞ。
背中を追いかけて気づく。
結局、人に言われようが言われまいが、あいつの見張り番なんだな、おれは。

Fin
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2005年07月16日

依頼2(Trap Version)

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。










[2]
エベリンの中心にある広場。
ここが二人の待ち合わせ場所らしい。
見張るのもいやだが、見張らない間に何かあったらもっと我慢ならねえ
…なんて考えて、結局来ている自分が情けない。

とりあえずは遠めで待っていることにする。
しばらくすると、パステルがマリーナに借りたワンピースなんぞ着てうろうろし始めた。
なんだよ、あんな格好わざわざさせなくてもいいんじゃねえか?
おれは早くも落ち着かない思いになっていた。
と、パステルが逆側に振り向き、笑顔になる。
相手はあいつか。
ふん。
いかにも優しそうな笑顔しやがって。
二人は二言三言会話をかわすと、歩き出した。

マリーナが予言したように手をつないで。

なんなんだ!
手をつなぐ必要なんて別にねえだろ!
おれは今すぐ出て行って手をつないでる部分をひっぺがしたい衝動に
かられたが、ふとおれを捜すかのようにキョロキョロするパステルの視線に
入らないように慌てて隠れた。
できれば、ちゃんと見張ってたなんてバレたくねえ。
悪いな、パステル。

視線を避けた後は徐々に距離を縮めてついていき、
二人がオープンエアになっている喫茶店に入った頃にはかなり近くまで追いついた。
ここまで来れば、パステルも辺りを見回すなんて挙動不審なことはしないだろう。
二人はマリーナの指示通り、通りに面している席をとる。
おれは、あいつがイスをひいてもらって座ったのを確かめると
店のすぐ横の壁際にさりげなく立った。

そういう見かけ倒しのレディファーストにだまされんなよ。

おれは聞こえもしない心の声でパステルに話しかけていた。

少しすると、新たにイスをひく音がし、依頼人が話す声が聞こえてきた。
「ジョゼット、こちら話をしてたレティシア。……これで信じてくれるかな」
あぁ、そういやパステルの偽名はレティシアだっけ、と思い出す。
つまりは、お騒がせの張本人が来たらしい。
これで「うん」となりゃ、早々にお互い解放されるが、
当然と言えば当然のように元恋人とやらは引き下がらない。
「ふ〜ん。あなたが彼女?」
「……は、はい」

くっそう。なんでこんな会話聞いてなきゃいけねえんだよ……。
おれが壁際でそっと溜息をついている間にも会話は続く。

「あなたはクローゼのどこが好きなの?」
「ジョゼット、初対面でいきなりそんなこと聞かれたってびっくりすると思うよ」
依頼人がフォローしている。
そりゃ、そうだ。
あいつは座ってるだけって話だからな。
「そう? でも本当に好きだったら答えられると思うけど」
「彼女は……レティシアは人見知りするタイプなんだよ」
しっかし、この依頼人頼りねえなぁ。大丈夫かよ。
おれがそう思うと、案の定強気な声が聞こえる。
「へええ。じゃあ、そういう曖昧な質問はやめるわ。
クローゼの住んでる場所、言ってみて」
……このねーちゃん、完全にパステルを標的にしてねえか?
おれはだんだん不安になる。
「あら。つきあってる人がどこに住んでるかぐらい当然知ってるわよね〜」
さらなる敵の攻撃に、パステルの声は弱々しい。
「あの……、まだ……つ、つきあって間もないので……外でしか会ってないんです」
“つきあって”という言葉に心の奥がちくっとする。
嘘ってわかってても、おれには充分なダメージだな……。
ほんっと情けねえ。
おれが服の胸の辺りをぎゅっと掴んだ瞬間、信じられない言葉が
耳に入った。

「あ、そ。じゃあ、これで最後。
本当につきあってるなら、わたしの前でキスして見せてごらんなさいよ」

[3]へ続く
posted by うみ at 08:22| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月15日

依頼1(Trap Version)

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。




※このSSはパステル視点の「依頼」SSのトラップ視点です。
こちらだけ読んでも話はわかるようになっていますが、パステル視点を
先に読むことをオススメします。





[1]
大体、マリーナの手紙が来た時点で内容を確かめるべきだったんだよな。
なのに、おれときたら、「パステルと二人」ってーのに惑わされて
のこのこと話を聞きに来ちまって……。


「ちょっと! ちゃんと聞いてた?」
マリーナが机越しに大きい声で話しかける。
「んな大声出さなくても聞こえてるって」
「じゃあ、いいけど。とにかく、何もないとは思うけど、もしも
パステルに何かあったら、依頼よりパステル助けることを優先していいから。
頼んだからね」
「そんなに心配なら、そもそも仕事の依頼なんかすんなよ。
大体な、あいつに他人の恋人のフリなんてどう考えたって無理だろ?」
そうだよ。何なんだよ、その依頼はよ。
しかも、おれはその見張りだと? 冗談じゃねえ。
「でも、パステル本人が受けてくれたのよ?」
……それだよ。
一人ずつ話を聞くって時点でも疑わなきゃいけなかったんだよ。
二人同時だったら、おれがいくらでもさりげなく中断させたのに。

そんな思いを知ってか知らずか、マリーナは
「パステル本人がいいって言ってるのに、トラップに断る理由は
ないと思うけど?」
などと言う。
こいつ、まさかそのために先にパステルと話したんじゃないだろうな……。
おれがこの依頼をよく思わないことを予想していた……とか。
まさか。
おれがちょっとひるんでいるとマリーナはさらに続けた。
「……それにね。今回パステルにこの仕事頼もうと思ったのは
何もパステルが、依頼人のいう女の子の条件に合ったからだけじゃないのよ」
「それ以上の条件があいつにあると思えないけどな」
詐欺って言葉から一番遠いやつだってことは、おれが保証する。

するとマリーナは満面の笑みで
「うん、だってパステルじゃないもん」
と言った後、おれを指差した。
「へ? おれ?」
「そ。最高の見張り番付き」
「はっ。それはどうかな。ちゃんと見張りするかどうかだって怪しいぜ」
おれはにやりとして言った。
マリーナが信じて不安になれば、この話もなしになるかもしれねえ……
と思いながら。

が、マリーナは不安がるどころか、不敵な笑みを返してきた。
「そうねえ。確かにトラップには今回の仕事はつらいと思うけど」
「は?」
どういう意味だよ。
「あぁ、ごめん。独り言、独り言」
舌を出して、すまして茶を飲みだす。
なんか引っかかる言い方なんだよな。
おれはちょっとばかし動揺する。
「……別につらいなんて言ってねえだろ。ばっかみてえ」
おれが机に足を投げ出して言うと、待ってましたとばかりにマリーナがたたみかける。
「あ、そ。つらくないならいいじゃない。
報酬もあるんだし、断る理由、ないわよね?」
くそ。
すっかりこいつのペースになってやがる。
仕方なく無言で頷くと、マリーナは満足そうに微笑んで
軽く付け足した。
「あ、そうそう。待ち合わせの時点から二人には恋人同士の
フリしてもらうから。手とかつないでもジャマしないでね」

……は?

と、その時、ドアの向こうからくぐもった声が聞こえてきた。
「パステルだけどー。もう、いいかなー?」
マリーナが上機嫌でドアを開けると、市場で時間をつぶしてきたパステルと
目が合った。
あいつの顔を見た途端、依頼内容を改めて思い出して、おもしろくない気分がぶりかえす。
「んじゃ、おれはアンドラスんとこ行くわ」
おれはあらん限りの不機嫌オーラを出した。
ちっとはこの不機嫌の理由に気づきやがれ。
「ええ?! もう? あ、明日の打ち合わせは?」
慌てるパステルを尻目にドアに向かう。
「んなの、ねえだろ。おまえが失敗しなけりゃ、俺の出番はないんだし」
打ち合わせなんか冗談じゃねえ。
おれは振り向きもせず、出て行った。

[2]へ続く
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2005年07月13日

「王子」の仕業

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。












光を感じてふと目を覚ます。

あぁ、そうだ。
今日は野宿したんだった。

手をついて、静かに少しだけ体を起こしてみると
とっくに消えた焚火の向こうに、見張り番をしていたはずの
クレイが座ったまま、首を深く垂れ熟睡していた。

……ったく、どこが見張りだよ。
なんて思ったものの、おれもよくやることだと気づいて苦笑した。
大体、おれが周りより早く起きるってのがかなり珍しい。

遠くで小鳥が朝のさえずりをしている以外、何も音のない静かな朝。

ふと左を見ると、隣ではパステルがこっちを向いてやっぱり熟睡している。
ま、隣と言っても間に後一人二人入れるぐらいの距離があるが。

おれは誰も起きてないことをいいことに、あいつの寝顔を見つめた。

こいつが14の時からずっと一緒だったのに、……いつからだっけな。
こいつの笑顔も寝顔も全部独り占めしたいって思うようになったのは。

はぁぁ。
なんでこんなことになっちまったんだろ。
おれは出るとこ出て引っ込むとこ引っ込んでるお色気ねーちゃんと
大人の恋愛するはずだったんだ。
それが、鈍感で色気もねぇこいつに手も足も出せねぇでいるんだもんな。
どこで間違っちまったんだか……。

そんなこっちの想いはお構いなしに、口を少しだけ開けて
すーすーと寝息を立てている。
ったく、ほんと無防備だよなー。

おれはもう一度、誰も起きてないことを確かめると
そっとパステルの方へ身を乗り出し、右手でパステルの頬に触れた。
うわっ、柔らけー!
と思った瞬間、

「……ん」
と、パステルが動き出した。
どわーっ!
慌てて元の姿勢に戻って、たぬき寝入りを決め込む。



結局、パステルはこれをきっかけに起きたようで、少しすると
他のメンバーを次々起こしだした。
だんだんとにぎやかな朝になる。
そして、おれの動悸がおさまった頃におれを起こしにかかった。
肩をガクンガクン揺らす。
「トラップーーーッ!!朝よ、朝!」
「……うーん……」
「起ーきーて!全く、いっつも一番最後まで寝てるんだからっ!」
「……わぁーったって。起きる、起きる」
おれがだるそうに身を起こすと、あいつは満足気な顔をしていたが
ふと思い出したように、朝食用のキノコを持って隣に来たキットンに話しかけた。
「そうそう!そう言えば今日ね、起きる直前に王子様が現れる夢見たのよ!
これって何かの前兆かなあ?」
「王子様? ナレオ王子ですか?」
「あ……えと……そういう王子じゃなくて……女の子の言う『王子様』よ」
途端に声が小さくなり、顔が真っ赤になる。
キットンはそんなこと気がついていないかのように豪快に笑った。
「ぎゃっはっはっ!そうでしたか!
そうだとしたら、それは逆に残念かもしれませんね」
「え? どうして?」
「朝見る夢は逆夢って言って、逆になることが多いらしいですよ。
だから『王子様』は当分現れないんじゃないでしょうか」
キットンはそう言った後、またバカ笑いを静かな朝の空気に響かせていた。

「……だけど、妙に現実っぽかったんだけどな……」
パステルが納得いっていないようにつぶやいたのを聞いて、おれは
いじわる心がふつふつと湧いてきた。
「ふ〜ん。どの辺が現実っぽかったんだよ」
「ど、どの辺って……。いいじゃない、内緒よ、内緒!」
とうとう耳まで真っ赤になっている。
「あれじゃないの? パステルちゃん、単に欲求不満なんじゃないの?」
にやりと笑って言うと、途端に腕の辺をバシバシ叩かれる。
「な、な、何言ってるのよーーーー!!バカバカ。トラップのバカ!」
言うだけ言って叩くだけ叩いたら、顔は真っ赤なまま「ふん」とばかりに
くるりと背を向けて、朝食の準備に取り掛かり始めた。

横で会話を聞いていたキットンは、パステルにキノコを渡しながら
「ま、さっき言ったのはあくまでも迷信ですからね。現実感があるなら
正夢の可能性もありますよ」
とフォローしていたが、パステルは「もう、いいの!」と半ばヤケになっている。



「その『王子様』っておれだぞ」って言ったら、こいつどうするかな……なんて
思ってみたけど、親の仇みたいにキノコをザクザク切っているパステル
を見てる限り、また叩かれて終わりなのは目に見えていた。

まぁ、いいか。
そのうちまた、夢の中の王子様の仕業にして今日の続きやってやる。

……多分。

……きっと。

……そのうち。

まずは早起きがいつできるかだけどな……。

Fin
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2005年07月09日

雪の降る日

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











今日みたいな寒い日は。


おれは昼寝にも飽きて、窓から外を見やる。
今にも雪が降ってもおかしくないようなどんよりした雲を見るだけで、
外の気温は想像できた。

今日みたいな寒い日は、あいつも買出し大変だろうな。

今日は確か原稿を出すついでに日用品の買い物をしてくるって
言ってたけど。
雪、降らなきゃいいけどな……。


と、窓の外の前方に、見慣れた服を着て、後ろでまとめた髪の毛を
揺らしながら、袋を抱えて走る姿が目に入った。

あーあー、そんなに急ぐと転ぶぞ。

おれがそう思ったのが合図かのように、本当にあいつは見事に
転んだ。
瞬間的に、窓枠に手をやる。

窓を開けようとしたその時に、手前からもう一人の人影が出てきた。
道に突っ伏したままのあいつに駆け寄るその姿は、やっぱりよく
見慣れた服を着て、黒髪をしていた。

手を窓から離す。
うん、そうだよな。
そういうのは、あいつの役目だ。
おれの出番じゃねえ。
大体、おれが今、窓開けてどうしようってんだ。

恥ずかしそうに笑いながら立ち上がる「あいつ」と
転がる荷物を拾ってあげながら、優しく笑ってる「あいつ」を
これ以上見ているのも何だから、おれは再びベッドに寝っころがった。

うん、ま、いいんじゃねえの。
何がどう「いい」のかよくわかんないまま、おれは納得していた。
いや、納得なんざしてもいねえけど、納得するフリをしていた。

しばらくして、階段を上がる音が二人分する。

そのうちの一人分の音がこの部屋まで来る。
「今さ、ちょうどおれが帰ってきたら、すぐ近くでパステルが転んでびっくりしたよ」
ファイターには似つかわしくない程の爽やかな笑顔でしゃべりかけてくる。
今まで昼寝をしていたとばかりに、おれは薄目を開ける。
「ふーん。大方、無意味に走って転んだんだろ」
「あー、確かに走ってたなあ」
「何をそんなに急いでるんだか」
「それは聞いてないけど……。本人に聞いてくれば?」
ま、ここは一つからかってくっか。
おれはのそっと立ち上がり、隣の部屋に向かった。

ドアを開け、机の前の椅子に座ったあいつと目が合った瞬間ににやっと笑う。
「パステル、“また”転んだんだって?」
案の定、小さくふくれる。
視線を落とすと、タイツのひざ部分が見事に擦り切れている。
「“また”って何よぉ。そんなにしょっちゅうは転んでないもん!」
そこへ床に座りながら何やら遊んでいたチビ達も加勢に加わる。
「ぱぁーるぅ、ころんだのぉー?」
「パステルおねぇしゃん、転んだデシか?」
「う、うん。ちょっと走ってたらね……」
二人(つーか、一人と一匹)に言われ、仕方なく認める。
「別にスケジュールがつまってる訳でもねえのに、走るからいけねえんだよ」
「だって……。外、すっごく寒いんだもん!1秒でも早く戻りたかったの!
ほら、まだ手すっごく冷たいよ」
そう言いながら、おれの目の前に手を出すもんだから、思わず
指先の部分を握ってみる。
おわっ!
「つ、冷てーー!!」
凍ってるかと思うぐらいの冷たさだぞ。
……ま、こんな日に外に出たら、こうなっちまうよな。

おれのハデなリアクションにルーミィとシロも駆け寄り、あいつは
二人にも手を差し出した。
「ぱぁーるぅの手、つめたぁい!」
「うわぁ、本当に冷たいデシね。パステルおねぇしゃん大丈夫デシか?」
「大丈夫…だけど、皆の手、すっごくあったかいね〜。皆の手で暖めてもらおうかな」
そう言うと右手はルーミィ達に差し出し、左手をおれの方に差し出した。
「は?」
「トラップは左の手、あっためて。皆を代表して買出し行ったんだもん。
ちょっとは労わってもらわなきゃ」
いつものおれだったら、一蹴して終わりだった気がするが、
この時はさっき窓の外から見た風景がフラッシュバックしたせいか
素直に従う気持ちになった。
「おれの手は高えぞ」
なんて一応軽口叩きながら。

「ふわぁ……。あったかーーーい」
幸せそうに力の抜けたへにゃっとしたこいつの顔を見てると。

早くこいつの手を温めてやりたいと思う気持ちと
なるべくゆっくり温めてずっとこいつの顔を眺めていたい気持ちが
交錯する。

この先、こいつの手を温めるやつが今日窓の外から見たあいつになるのか、
別の誰かになっちまうのか、今はまだわからない。
だから、せめて。
今だけはあいつを温められるおれでありたい。


「ぱーるぅ、ルーミィの手も冷たくなってきたー!」
ルーミィの声で、あいつの手はおれの手を離れ、両手でルーミィの手を
触った。
「わっ!本当だ。ごめんねー!ルーミィ!!」

結局おれの勝手な思いはあっさりと打ち切られ、
おれの手にはパステルからもらった外気の冷たさだけが残った。
でも今はその冷たい感触が嬉しかった。
「おい、パステル!今日はおれが暖めてやったんだから、今度おれが
外行った時は逆な」
何か言いたげなパステルを残し、おれは部屋を出た。


自分の部屋に戻り、ふと窓を見ると、外は雪が降ってきていた。

ゆっくりと。
ゆっくりと。

Fin
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2005年07月06日

依頼3

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。











[3]
「きた」
短くつぶやいたクローゼの声で、思わず入り口近くを見る。
金髪をきりっとポニーテールにまとめ上げ、眉もきりっとした
かわいいというよりはきれいな人。
にこにこ笑顔がトレードマークのクローゼからイメージする彼女とは
ちょっと……いや大分違うかも。

ジョゼットは挨拶するどころか、目線も合わせず空いている席に座った。
クローゼはそれを気にする風でもなく、相変わらず笑顔でわたしを紹介する。
「ジョゼット、こちら話をしてたレティシア。……これで信じてくれるかな」
そのセリフでようやくこっちを見るけど、迫力があって……ちょっと恐い。
というか、これってやっぱり睨まれてるって言うんだろうな。
「ふ〜ん。あなたが彼女?」
「……は、はい」
う〜ん、なんかいやな予感。
「あなたはクローゼのどこが好きなの?」
ぐっ……。
いきなりきた……。
とっさのことで詰まると、クローゼが助けてくれた。
「ジョゼット、初対面でいきなりそんなこと聞かれたってびっくりすると思うよ」
「そう? でも本当に好きだったら答えられると思うけど」
「彼女は……レティシアは人見知りするタイプなんだよ」
クローゼが必死に言ってくれるんだけど、彼女は反対に余裕しゃくしゃくという
感じでニッと笑う。
「へええ。じゃあ、そういう曖昧な質問はやめるわ。
クローゼの住んでる場所、言ってみて」
え?ええーーーーーー?
住んでるところ……。住んでるところ……。
無意味に繰り返してみたところで、知らないものは知らないし……。
クローゼが何か言いたげだけど、ジョゼットがすぐに制止する。
「あら。つきあってる人がどこに住んでるかぐらい当然知ってるわよね〜」
わたしは必死に頭を働かせて切り抜ける方法を考えた。
「あの……、まだ……つ、つきあって間もないので……外でしか会ってないんです」
「つきあって」という部分が言い慣れてないのがバレバレのような気がしないでもないけど。
これがわたしの限界。
お願いーー!これで納得してーーー!
必死の願いもむなしく、ジョゼットはわたしにトドメの一発を見舞った。
「あ、そ。じゃあ、これで最後。
本当につきあってるなら、わたしの前でキスして見せてごらんなさいよ」

は?は?はああああああああ?
わたしの頭の中はハテナがいっぱい。
ドウシテソンナコトニナルノ???

と、その時。
わたしの腕がふいに引っ張りあげられた。
「はい。そこまで」
聞き覚えのある声に振り向くと、やっぱりトラップ!
近くにちゃんといて、助けに来てくれたんだ!!
そう思うと同時に体の力が抜けたけど、彼は掴んでる力を緩めるどころか
さらに力を入れて引っ張りあげる。その勢いでわたしは椅子から立ち上がった。
その瞬間刺さるジョゼットとクローゼの視線。
そ、そ、そうだった。
ここは上手くトラップに立ち回ってもらうしかない。
「なんですか? あなたは!」
ジョゼットはもちろん、トラップの存在を知らないクローゼはかなりびっくりしている。
そりゃ、そうよね……。
後はトラップに合わせるしかないわたしは、
もうここまで来たら、どんなシチュエーションでも頑張ってついていくわよ!
と覚悟を決めて、トラップの次の言葉を待っていた。
ところが、トラップは
「おれ? こいつのエージェントだろ。あんた、自分でニセの彼女頼んどいて何言ってんの?」
などと言い出した。
クローゼは目が点。
その前に私も目が点。
何よ、その中途半端な嘘!
なんでなんでバラしちゃう訳ーーー?!
一人笑うのはジョゼット。
「やっぱりね〜。最初聞いた時から変だと思ってたのよ。やっぱり彼女なんていなんじゃない」
トラップは最高に不機嫌そうにジョゼットに目線をやる。
「あんたもな、この男がこんな芝居仕掛けてまで、あんたと別れたいっつーのに気づけ!」
その不機嫌そうな顔を今度はクローゼに向ける。
「お前もな、最初と言ってること違うじゃねえか。何が座ってるだけでいい、だ。
これ以上何かするんだったら、追加料金いただくからな」
顔を真っ赤にしたジョゼットとずーーっと目が点になりっぱなしのクローゼをそのままに、
トラップはわたしの腕を掴み、直接、外の通りにずんずんと進んでいった。



えーっと、えーーーーっと。
この状態ってやっぱりあれよね。
依頼されたお仕事、失敗したってことよね……。
未だ腕を掴まれ、通りを進みながらつぶやいた。
「どうしよう……。マリーナの信用つぶしちゃった……」
すると、ずっと黙っていたトラップが腕を離し、ふいに立ち止まった。
「だったら、あそこでおれが出て行かない方がよかったのかよ」
や、それは困る。
それは困るんだけど……。
「ま、ちょっとでもあの男とキスしたかったんだったら余計なお世話だろうけどよ」
「な、何言ってるの?! そんな訳ないでしょう?」
わたしが慌てて言うと、不機嫌そうな顔から一転いじわるそうな顔になった。
「ふーん。だったら、お礼は?」
悔しいーー!!
けど、助けてもらったのは本当だし。
わたしは素直にお礼を言った。
「……ありがとう。ちゃんとずっとついててくれてたんだね」
「いやーまぁ、大丈夫だろうから適当に遊んでくっかと思ってブラブラしてたら
冷や汗ダラダラのパステルちゃんが目に入ったからさあ。いや、タイミングよかったね」
適当に遊んでくっか……ですってーーー?!
くーーーーっ!!
……わたしのお礼を返せーーーー!!
ニヤニヤ笑ってるトラップの背中をポカっと叩いたけど、
またふと冷静になって思い出した。
「マリーナに謝らなきゃ……」
せっかく、わたしを信用してくれて依頼してくれたのに。
先払いとしてもらった報酬を返すことよりも、だんぜん、そっちの方が気になった。
今からマリーナの落胆した顔が目に見えるようで……、これで実際会ったらどんな顔して
会えばいいんだろ。
でも、トラップはまた不機嫌そうな顔になり
「いや、今回はあいつが悪い」
とだけ言って、再び歩き出した。

それについていこうとした矢先、後ろから声が聞こえた。
「パステルさーーーーん!」
振り向くと、クローゼが息せき切って走ってきて、わたし達のところまで来ると、
ひざに手をやり、はぁはぁと呼吸を整えている。
それを見て
「なんだよ。しゃべらないんなら、行くぞ」
って、トラップが言ったんだけど。
「ま、待ってください」
と、クローゼもようやくしゃべりだした。
「あの後…。ジョゼットに今回のことを一から正直に話しました。
そうしたら、彼女わかってくれました! 彼女もわたしに嘘つかれているのがいやで
意固地になっていた部分があったみたいで……。自分の気持ちを全部言ったら
“それならしょうがない”って。お二人のおかげです!ありがとうございます!!」
言い終わると深々と頭を下げた。
わたしも「いえ、こちらこそごめんなさい」と深々とお辞儀をする。
クローゼはまた頭を上げるとにっこり笑った。
「いえ、パステルは謝らないでください。自分の恋愛事に他人を
巻き込んでしまったわたしがいけなかったんですから」
そういうとクローゼはわたしの後ろにいるトラップを見た。
「それに……。そんな素敵な彼氏さんがいると知らずにこんなお仕事やってもらって
すみませんでした。止めなくてもさすがにキスはしませんけど、
きっと気が気じゃなかったですよね。本当にすみませんでした。
今回の報酬はちゃんとマリーナさんから受け取ってください! それでは!」
言い終わると、軽く手をあげ、くるりと背を向け雑踏の中に消えていった。


「よかったね〜。トラップ」
わたしが安心のため息と共に言うと、トラップはなぜか慌てていた。
「へ? よかった? ……あ、あぁ、あいつらのことな」
「あいつらのこと、って。他に何かいいことでもあるの?」
「……ねえけどさ」
へーんなトラップ。
あー、でも本当にうまくいってよかった!
これでマリーナにも報告できるし、お金もちょっとだけど手に入るし。
何より、クローゼも嘘をついたままより、やっぱりちゃんと本当の気持ち
言った方がいいもんね。
あ、でも嘘と言えば。
「ねえ、トラップ。なんであの時、もっといつもみたいに大掛かりな嘘つけなかったの?」
「……あ? なんだ、そりゃ。それじゃ、おれがいっつも平気な顔して大嘘ついてるみたいじゃん」
「自覚ないの?」
「おめえ、失礼なやつだな!」
あはははは。
ま、結果オーライってことで、いっか。

よし!じゃあ、このお金でルーミィや皆に目一杯おみやげ買って帰ろう!
そう考えると楽しくなってきて、うん、たまにはこういう依頼もいいんじゃない?
なんて思ってみたり。
喉元過ぎて熱さ忘れる……にしても早すぎかな。
でもきっと、次も何かあったらトラップが助けにきてくれそうな気がするし、ね。
ポカッとしようとするトラップの手を避けつつ、わたしはほくほく気分で市場の中心へ向かった。

Fin
posted by うみ at 09:57| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月05日

依頼2

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。










[2]
実際、ほどなくして依頼人がやって来た。
名前をクローゼと言って、優しそうな人。
ずっとニコニコしていて、ちょっと下がった目尻が笑うとさらに下がる。
眼鏡はかけてないけど、雰囲気がちょっとトマスに似てるかも。
マリーナが事情を説明して謝ったけど、全然怒る訳でもなく、
むしろ、わたしにはずっと恐縮していて
「すみません! すみません! 負担かけないようにしますので、よろしくお願いします!」
と、何度も頭を下げるものだから、わたしもついつい同じように
「いえ! こちらこそすみません! よろしくお願いします!」
とペコペコ。
うーん、我ながらつられやすい性格……。

でも、彼はその優しさのために前の彼女(ジョゼットと言うらしい)
に別れを強く言うことができなくて、つい「新しい彼女ができたから」と
嘘を言ってしまったんだとか。
そうしたら、「だったら、一度本人に会わせて」って言われて後にひけなくなった…
というのが事の顛末らしい。
ま、会いさえすれば納得するんじゃないかって、クローゼもマリーナも言ってたから、
わたしはかなり気楽な気分になった。
あ、そうそう、わたしの名前は「レティシア」になった。
慣れるために、今からクローゼもマリーナもわたしのことをその名前で
呼ぶことにしたんだけど、その度に
「……うわ、は、はいっ」
と心許ない返事をしちゃう。
だ、大丈夫かなぁ。
わたしは再びちょっと不安になってきた。
でも、もうやるしかないもんね。
そんなことを考えている間にも、明日の待ち合わせ時間や場所などの確認をして
打ち合わせは終了。
クローゼは何度も礼をしつつ帰っていった。

トラップが早々に出て行ってしまったので、わたし達はその後二人でゴハンを食べ
明日に備え、早くに寝ることにした。特にマリーナは早朝には乗合馬車で
別の街に向かうらしい。
だから、わたしは待ち合わせの場所に一人で行かなくちゃいけないんだよね……。
トラップには場所も時間も伝えてあるから大丈夫って言ってたけど、
寝坊なんてしないでしょうね?
うーーーーん、すごーくありえる……。
色々考え始めたら、だんだん不安が大きくなってきたけど、乗合馬車に乗った疲れからか
気がついたらあっという間に眠りに落ちていた。




エベリンの中心にある広場。
ここの時計塔で待ち合わせをしているんだけど、クローゼが見当たらない。
うーーん、どうしたんだろう?
心配になって時計塔の裏側に行ってみようと思った時、後ろから声がかかった。
「レティシア!」
ん?聞き覚えのある名前……って、わたしの名前だ!
慌てて振り向くとクローゼがにこにこと立っていた。
「ずっと逆側で待ってたみたいだ。気づかなくてごめんね」
あちゃー。やっぱり……。
「いえ、わたしの方こそ逆側までちゃんと確認してなくて……ごめんなさい」
「じゃ、さっそく行こうか。ジョゼットとはお店で待ち合わせてるんだ」
念の為、ここから演技に入ることになっているので、クローゼもわたしも敬語は使わない。
しかもクローゼは、ごく自然にわたしの手をとって歩き出した。
ひゃーーー。
なんか、これってデートみたいじゃない?
「彼女」を演じてるんだから、当たり前なんだけど……。
と、そこまで考えて気がついた。
トラップ!ちゃんと来てるのかな。
ちょっとだけ辺りを見回してみたけど、見慣れた赤毛は見えない。
トラップは保険みたいなものということで、クローゼには話してないから
説明して探す訳にもいかないし……。
マリーナ!
ほんとにほんとに、大丈夫なのーーーっ?!


ジョゼットと待ち合わせていたお店は、すぐ近くのおしゃれな喫茶店だった。
まだ、彼女は来てないみたい。
よかった……。やっぱりもうちょっと心の準備が必要だもの。
クローゼは慣れた様子で通りに面しているオープンカフェの部分の席をとり
イスをひいた。
「どうぞ」
な……なんかこういう扱いされるのって慣れてないから、調子くるうなあ。
わたしは小さく会釈をして、ちんまりと座った。
……トラップ、どうしたかな……。
いつジョゼットが来るかわからないので、もうあんまりキョロキョロできないしなぁ。
でも、大丈夫だよね。
座ってるだけだもん。トラップの出番なく終わるはず!

[3]へ続く
posted by うみ at 08:21| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年07月01日

依頼1

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。










[1]
「ええー?! 絶対無理だよぉ……」
わたしの何とも情けない声にマリーナも困った顔。
「うん。パステルがこういうの好きじゃないってこと
わかってるんだけどね……」

ここはマリーナのお店。
実は数日前、マリーナからみすず旅館に手紙が舞い込んだ。
内容は「パステルとトラップに依頼したい仕事がある。もちろん礼金あり」
っていうもの。その仕事がどんな内容かまでは書いてなかったけど、
ちょうど冒険の予定は数日なかったし、「礼金あり」っていう誘惑には
勝てず……いやいや、何より他ならぬマリーナの依頼だったから、
ルーミィのお世話をクレイに頼んで、二人でエベリンに来たん……だけどね。
なぜか、肝心の依頼は一人ずつするってことで、まずはわたしだけが
マリーナのお店へ行って話を聞いてるって訳。

で、その仕事の内容っていうのを聞いてみたら
「依頼者の恋人のフリをして、前の恋人をあきらめさせる」
というもの!
うう……、なんかそれ、わたしの一番苦手分野じゃない?
「他人のフリ」でしかも「恋人」だなんて……。

もちろん、元々はマリーナに来た依頼なんだけどね。
珍しくマリーナが勘違いして、ダブルブッキング……つまり別の仕事も
同じ日程で入れてしまったそうで。
そっちのお仕事は割と難易度が高いから、比較的簡単な
「恋人のフリ」という方の代理を探していたんだけど、日程と年齢が
合う詐欺師仲間がたまたまいなくて、途方に暮れてたんだって。
で、依頼人の条件「17〜18才ぐらい、薄茶色の長い髪、中肉中背」
というのにぴったり合う知り合いとなると……わたしだけ……らしい。
しかもその日程というのが、もう明日!
マリーナが切羽詰まるのもわかるよね。

マリーナはわたしの両手をぎゅっと握る。
「本当にごめん!でもね、基本的に座ってるだけでいいの!
話は全部、依頼人の人が進めるって言ってるから。それに、今回は王女じゃなくて
普通の人だから、いつも通りのパステルでいいから!」
あー、そっか。前みたいに笑っちゃだめ、とか言葉遣いとかそういう制限は
ないんだよね、今回。
座ってるだけならできるかなぁ。
そんなことを色々頭で考えてたら、マリーナは断られると思ったのか
握った手の力を緩めて、下を向いた。
心なしかピンクの前髪もしょげているように見える。
「……やっぱ、ダメ、だよね……」
「え?!ううん!ダメじゃないよ、ダメじゃ」
思わず言ってしまう。
うん、でも王女役に比べたらなんとかなりそうな気がしてきた。
…単純かな?たはは。
「え?ってことは……」
「うん。やってみる」
「……大丈夫? 無理してない?」
なおも心配そうなマリーナ。
「うん、無理してないよ。ただ、本当に座ってることしかできないけど……」
そこまで言うとようやくマリーナにも笑顔がでてきた。
「本当? ありがとう!!うん、座ってるだけで大丈夫!
依頼人にもちゃんと話すから。それに、いざと言う時のために
人もつけておくから、困ったら合図で助けを呼んでくれればいいから!」
「人?」
「そ。そういう時の切り抜けがうまい人が同じパーティにいるでしょ」
パチンと上手にウィンク。
なるほどー。それで、今回の仕事はわたしとトラップのご指名だったのね。
あれ? でも。
「じゃ、なんで依頼内容を一緒に聞いたらだめなの?」
今話した内容で、トラップに聞かれたら困ることなんてないと思うんだけど……。
「話す内容は同じなんだけどね。まずはパステルの意見をちゃんと聞いてから
じゃないと、アイツのペースでパステルがやるって言ってもだめになっちゃう
かもしれないから」
「え?わたしがやらないって言っても、トラップがやるって言うんじゃなくて?」
どう考えてもそのパターンだよね。報酬第一の人だもん。
「うん、まあ、どっちにしろ、とにかくパステルだけの意見をまずは
聞きたかったんだ。……でも、よかったぁ。これで断られたらどうしようって
思ってたんだ」
そう言って笑うマリーナは相変わらずかわいかった。


その後、トラップとマリーナが話す間、わたしは市場でぶらぶらして時間を
つぶした。
実は、お店を見てる時間より迷ってる時間の方が長かったんだけど、
それはマリーナにもトラップにも内緒。

マリーナのお店に戻り、ドアを叩きながら声をかける。
「パステルだけどー。もう、いいかなー?」
すると、すぐにドアが開いてマリーナが顔を出した。
「うん!もう話は終わってるから、どうぞー!」
家に入ると奥ではトラップが机に足を投げ出して座っていた。
……なんか不機嫌?

わたしの顔を見ると、ますます不機嫌そうになり立ち上がった。
「んじゃ、おれはアンドラスんとこ行くわ」
「ええ?! もう? あ、明日の打ち合わせは?」
慌てるわたしを尻目にドアに向かう。
「んなの、ねえだろ。おまえが失敗しなけりゃ、俺の出番はないんだし」
言いっ放しで出て行ってしまった。
な、何なの一体!
困ってマリーナを見たけど、マリーナは全然気にしてないって感じ。
「ごめん、ごめん。トラップが機嫌悪いのは、わたしのせいだから。
大丈夫。アイツは絶対、明日パステルのこと、ばっちり見守ってるから」
うーん、どこからそんな自信が出てくるのかよくわからないけど、
でもマリーナにそう言われると安心しちゃう。
「それより、もう少ししたら依頼人が来るから、心配なことあったら
何でも聞いてね」
机の上のカップを片付けながらマリーナが言う。
そうだ、そうだ。トラップの心配より、まず自分の心配しなきゃ!


[2]へ続く
posted by うみ at 10:41| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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