2005年06月27日

出会いへの助走

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。










ちぇ。
学校の宿題なんて、おれには関係ねえのになあ。
だってよ、もう少ししたら冒険者になるんだぜ。
そしたら父ちゃんみたいにガンガントラップ見破って
んでクレイがザックザック敵を切り倒して
お宝頂戴する訳よ!
くーーーっ!わくわくするぜ!!
そんなのに計算も文法も関係あるかよ!

…そんなことを机に座って考えてたら余計に宿題なんて
どうでもよくなってきた。
おれはいつものように机近くにあるカーテンと出窓を開け、
そっと裏庭に飛び降りる。
へへ。

成功と思った瞬間、隣の窓ががらっと開いた。
「トラップ!何やってんの!!宿題やったの?!」
あっちゃあ。
母ちゃんってなんでいっつもおれが抜け出すのわかるんだろ。
そんな疑問を持ちつつも、おれは一目散にダッシュした。
母ちゃんのお小言はまだ続いていたけど。
母ちゃん、ごめん!後でやるからさ。

おれはそのまま全速力でいつも通り、クレイのお屋敷に向かった。
が、その最後の角を曲がろうとした時、その先から女の声が聞こえて
思わず立ち止まった。
「…クレイ!だからね、この際ちゃんとはっきりしときたいの。
ここにいるわたし達の誰が一番好きなの?!」
なーんか、やばいとこ来ちゃったかな。
クレイの
「エルザ、えーっと、だからこの中で誰が一番とかって僕には
決めれないよ」
という困ったような声が聞こえる。
しかしこういう時の女は強い。
残りも次々と加勢する。声からするとシーラとエレニだ。
「どうして? クレイが決めてくれないとわたし達も困るのよ」
「そうよ!みんなが好きなんて答え、ズルイわ!」
うへぇ。
これだから女ってーのは困るんだよな。
集団できやがって。
こりゃ、クレイが切り抜けるのは大変そうだな…と思ったおれは
悠々と角を曲がり、一喝してやった。
「おいっ!クレイはおまえら全員好きじゃねえから答えられねえんだ。
そんくらいわかれよな!」
でもそのセリフを言い切ったところで、おれはひるんだ。
声が聞こえてこなかったから、気づかなかったけど
ウィンディがいた。
なんだよ。なんでアイツまでいるんだよ。

突然出てきた援軍に女子はさすがにひるんだのか、うっと詰まったようだったが
リーダー格のエルザはおれを睨みつけた。
「なっ…。失礼ねっ!モテないからってひがんでるんでしょ!!
いいわよ。今日はもう帰るから!」
と言い放った後、他の女子にも声をかけ次々と駆け出していった。
ウェンディはおれと目線を合わせると赤くなった顔をすっと下に向け、
同じように背中を向け駆け出していった。

いっつもおれと話してたウェンディ。
いっぱいからかったりもしたけど。
おれがクレイとの小さな冒険話をする度にいっぱい笑ってくれて
おれはその笑顔を見るのがすごく楽しみだったんだ。
でも…そうかよ。
その笑顔はおれのためじゃなくて、クレイのためだったんだな。

「トラップ、ありがとう。急に皆で来てさ、まいってたとこなんだ」
クレイが心の底からほっとしたような顔をして声をかけてきたけど、
おれはぶっきらぼうに
「今日は帰る」
とだけ言って、また角を曲がり、来た道を全速力で走った。
傾きだした太陽で伸びてきた自分の影を踏みながら。


いつからだろう。
昔は何にも考えず毎日クレイと遊んでたのに、気づけば
あいつはどんな女の子も振り向くぐらいかっこよくなっていて
その上、気配りや正義も持ち合わせていて…そんなあいつを
チクショー!と思うようになったのは。

だけど。
口になんか絶対出さねえけど。
同じくらい「どうだ、おれの親友すごいだろ!」って誇らしくも思う。
だから、おれはこんなことでは泣かねえ。
そうだよ。
別にウェンディが好きだった訳じゃねえ。
おれは女なんか本気で好きになんかなんねえし!
どうせもう少ししたら冒険者になるんだから、女なんか好きになってる
場合じゃねえんだ!


歯を食いしばりながら走り、家の前までたどり着く。
と、そこには洗濯物を取り込み終わったマリーナがいた。
「どうしたの? さっき脱走してクレイん家行ったんじゃないの?」
…行き先もバレてたか。
「…なんでもねえ」
「ふーーーん。その感じだとまたクレイとケンカした?」
あぁ、いっそケンカの方がよかったかもしんねえな…おれはそう思いながら
なんとなく宣言したい気持ちになった。
「おれさ、パーティ組む時は男だけにしとく」
「は? 何それ、突然」
「クレイと一緒にパーティ組む限り、女入れると面倒くせえから」
そこまで言うと、勘のいいマリーナはそれなりに状況が読めたようだった。
「なるほどね…。ま、いいんじゃないの、その方が」
洗濯物の入った籠を脇に抱え直すと、思いついたとでも言うように
つけ加えた。
「でも、もしもクレイになびかない女の子がいたら、ありなんじゃないの?」
冒険でパーティ組んだらずっと一緒なんだぞ。
なびかねえ女なんているのかよ。
そんな状況は考えつかなったので、曖昧に返事をした。
「あー…さあな」
そんなおれの返事をほとんど聞いていないのか、独り言のように
マリーナが続ける。
「でも、そしたら、トラップがその子のこと好きになっちゃうかもね」
「は?」
「ふふふ。なんとなく」
何言ってるんだか。
とにかく、口に出して言ってみたら、ますます早く冒険者になりたくなった。
血湧き肉躍る戦いと罠とお宝!
そうさ、こんなことでへこたれてなんかいられねえ!

おれは母ちゃんのカミナリをちょっとでも減らそうとマリーナの洗濯籠
を持ってやって、家に入っていった。
マリーナがわざと大きい声を出す。
「母さーん!トラップのご帰還よー!!」




女…いや、マリーナの言うことはあなどれねえ…と気づいたのは数年後の話。


posted by うみ at 07:48| Comment(2) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月25日

誓い2

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。



トラパシストの方へ…この創作は結婚式モノです。そこまでの未来はNGという方は
スルーしてください。ごめんなさい。





[2]
今日のもう一人の主役。
わたしの姿に気づいて一瞬目を合わせたから、こっちへ向かってくるんだろうなって思ったのに。
突然背を向けて、わたしとは反対方向へ歩き出そうとした。
えぇ?! ちょっとーーー!
…と叫ぼうとしたけど、その前に、ヘアメイクさんが声をかけてくれた。
「ご新郎様! もうそろそろ案内役のシスターがきますので、
控え室から離れないでくださいー!」
観念したようにくるっと向きを変え、こっちに来るものの、
目線は絶対合わせようとしない。しかも近づいての第一声は不機嫌声。
「…遅せえよ」

…まったく、もお!
せっかくの結婚式の新郎様のセリフとは思えないっ!
「しょうがないでしょ。今日が人生で一番頑張ってきれいになった日なんだもん!
だから、ちゃんとこっち見てってば!」
「へえ。…今日が一番ってことは明日からは転がり落ちる一方ってことか?」
視線はあさってのままで皮肉な口調。
相変わらずかっわいくなーいっ!
ま、この人から「きれいだよ」なんて言葉もらえるとは思ってないけどさー。
でも「いいんじゃん」くらいは言ってくれたっていいのにー。
ふんだ。
わたしはブーケを持ってない右手でトラップを殴る真似をし、トラップが大げさによけた。
とその時、トラップの後ろから
「ふぁっ」
と声が聞こえた。
二人で「ん?」と思いトラップの背後を見てみると、
トラップの背中にぶつかったのか鼻を押さえたシスターが立っていた。

小柄でまぁるい眼鏡をかけたかわいいおばあさん、という感じのシスターは、
その眼鏡を鼻の上にかけ直しながら、わたし達の間にちょこちょこと移動してきた。
「今日はわたしが案内役をします。よろしくね」
にこにこしながら、わたしとトラップそれぞれと握手をした後、
「では、さっそく教会前へ移動しましょう」
と言うと先頭に立って歩き出したので、わたし達はヘアメイクさんに軽く挨拶をして、
その後に続いた。


歩きはじめたものの、トラップを見上げたら、なんか今まで見たことがないような
こわばった顔。もしかして…と思い、下から覗き込むようにして聞いてみる。
「ねえ。もしかして、ものすごーーーく緊張してる?」
しばしの沈黙の後、ぼそっとつぶやいた。
「……おれ、結婚式なんて二度とやらねえ!」
視線を前に固定したまま仏頂面で言うトラップを見てたら、なんだかとっても
おかしくて。
わたしは最後にちょっとだけ残っていた緊張もなくなって、
すっかり楽しくなってしまった。
「当たり前でしょ!わたしだって二度も結婚式するような人生いやですよーだ!」
笑顔で答えたけど、トラップはフンと鼻をならしただけだった。


そんな話をしている間に教会を回りこんで正面の扉に到着。
そうそう、今日は気持ちのいい快晴!
上を見上げると雲が全くなくて、どこまでも突き抜ける青い空が続いていた。
新緑の匂いが気持ちよく、時々小鳥のさえずりも聞こえる。
church01.jpg
そんな風に周りを見ていたら、シスターが立ち止まった。
「はい、ここの前に腕を組んで待っていてくださいね。教会の鐘を合図に扉が開きますから」
100年以上経っているんだろうなぁっていう大きくて重みのある扉は、
長い風雪で黒光りしていた。
その扉の前に、トラップが右、わたしが左に立ち、二人腕を組む。
でもね。この時もトラップはこっち見なくて、腕だけ黙って突き出したんだよ。
もう〜〜〜。
でももう、しょうがないって溜息一つつくだけで、その腕に軽く手をかけた。
その間も、シスターは後ろの方でわたしのベールやトレーンを整えていて忙しそう。


その時、相変わらず前方の扉を見たままのトラップがふいに話しかけてきた。
「…なぁ」
でもその顔はさっきみたいなこわばった顔というよりは…真剣な顔。
「なぁに?」
「おれはさ、神さまとかにお願いしたり約束すんのって
好きじゃねえけどさ」
そこまで言うとトラップはようやくちゃんとこっちを向いて、視線をまっすぐくれた。

「……今日だけはちゃんと誓うからな」
言うだけ言って、みるみる赤くなる顔をまた前に向けるトラップを見ながら、
わたしは改めて確信した。

この人と結婚して幸せになれるって。

「うん!わたしも」
心の底から誓うからね。



教会の鐘が晴れ渡る空に響き、扉が少しずつ開いていく。
開いた隙間から一筋の光が入っていく。
わたしたちは、その光の先へ進みだす。



------------あなたは、その健やかなときも、病めるときも、喜びの時も、悲しみの時も、
富めるときも、貧しきときも、これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、
その命のかぎり、堅く節操を守ることを誓いますか?

------------はい、誓います

Fin
posted by うみ at 08:15| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月22日

誓い1

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。



トラパシストの方へ…この創作は結婚式モノです。そこまでの未来はNGという方は
スルーしてください。ごめんなさい。




誓い

[1]
「お支度整いましたよ」
はぁぁぁぁ。
いよいよだ…。
まつ毛も髪の毛もくるっくるのヘアメイクおねえさんにそう言われ、
改めて緊張が走る。
教会脇にある小さな支度部屋。
いつのものだろうっていうくらいアンティークな鏡台の前の
丁寧な刺繍がしつらえてある椅子に座っている私は小さく深呼吸した。
その横にもう一つ大きな全身用の鏡があるだけのシンプルな部屋は、
わたしとヘアメイクさんとあと一人入ったらもういっぱいじゃないかというぐらいの
広さだった。
(ま、わたしのふわふわドレスが場所をとってるっていうのもあるんだけど)
でもヘタに広い部屋だったら余計に緊張しそうだし、今はこの狭さが
ちょっと落ち着くかも…。
などと考えていると、支度部屋の扉がふいに開いた。
「パステル!!」
控えめだけど、弾んだ声で顔を出したのはマリーナだった。


「マリーナ!」
高まっていた緊張が少し和らいで、今日初めてかもっていう笑顔で答える。
向こうはこれ以上ないっていうくらいの笑顔。
「わぁぁぁっ…!!きれい、きれい!お姫様も顔負けのかわいさだよ、パステル!」
そういうマリーナも大人っぽいスレンダーなブルーのドレスを着こなしていて
すっごくきれい。
「本当? ありがとう!それと、ネックレスとイヤリングもばっちりドレスに合ったよ!
本当にありがとう!」
わたしは左手でネックレスを右手でイヤリングを指で指しながら答えた。
そうなの。実は結婚のお祝いにってマリーナがネックレスとイヤリングを
手作りしてくれたの!パールとそれを囲むように雫の形のクリスタルが
つらなったすっごく素敵なネックレスと、お揃いのイヤリング。
今日初めてドレスと併せてみたんだけど、ぴったりだったのだ。

でもそう言った後のマリーナはそれに答える訳でもなく、わたしをじっと見て目をうるませていた。
「え? やだ。どうしたの?」
「…うん。なんかね、これまでの出会いから今までを思い出しちゃって…。
本当に…よかったね。」
わ。わ。
「マリーナ!そんなこと言い出すとこっちまで涙腺緩くなるからやめてって!」
言ってるそばから、本当に涙腺が反応してるし!
「あっ、そうだよね。ごめん、ごめん!じゃあ、話題変えるね。
というか、そのために来たんだけど」
マリーナは目頭を一旦押さえた後にはいたずらっぽい笑顔になって、意味ありげにわたしを見た。
「え? 何?」
「あのね、たまたまそこの廊下歩いてたら“新郎様”がそわそわうろうろしてたの。
で、わたしの顔見るなり『あいつの準備まだかって聞いてこい』って。わたし、それこそ
小さい頃からずっと見てるけど、あーーんなに緊張してるトラップ、見たことないよ!」
言い終わった後もクスクスと笑いが止まらない。
そんなマリーナを見てたら、わたしも笑いが止まらなくなってきちゃった。
でもお陰でわたしの方の緊張がとれたみたい。
「そっかぁ。じゃ、その緊張してる“新郎様”に『もうすぐで終わる』って伝えて!」
って言うと、マリーナは親指を立てて
「了解!じゃ、また後でね」
と言って、また支度部屋から風のように消えていった。

「じゃあ、最後に全身鏡でもう一度チェックしましょうね」
というヘアメイクさんの声でわたしは鏡台から大きい鏡の方へ移動した。
髪は夜会巻き風にアップにしてもらって、上にはティアラ。
バラの刺繍が縁取られたロングベール。
胸もお揃いのバラの刺繍のレースが装飾され、背中には小さいくるみボタンが一列、
腰にはボリュームのあるリボン、それに続くように広がる長いトレーン。

鏡に映るわたしの向こうに、わたしはいつしか語りかけていた。

お父さん。
お母さん。
わたし、今日結婚するからね。
だから、ちゃんと見ていてね。
けんかもいっぱいしたし、泣いたこともあったけど、
誰よりわたしのことを考えてくれて、守ってくれて、
それでいて前に進めって言ってくれる人だから。
だから、わたし絶対幸せになるよ!


「はい、大丈夫ですね!」
ベールやトレーンなども細かくチェックしてくれたヘアメイクさん。
最後にバラのラウンドブーケを手渡してくれた。
このブーケはスグリが作ってくれたもの。
その他にもパーティの皆はもちろん、みすず旅館のご夫婦、猪鹿亭の皆、
今までの冒険で出会った人達…色んな人に色々なお祝いをいただいた。
わたしはなんていっぱいの人に見守られてここまできたんだろう。
そう考えるだけで胸がいっぱいになる。

「…大丈夫ですか?」
ヘアマイクさんの声ではっと気づく。
いけない、いけない。すぐ感傷的になっちゃうな。
「あ、大丈夫です!」
と答えると、こちらを安心させるかのようににっこり笑った。
「じゃあ、行きましょう!」
誘導に従って支度部屋を出る。
うぅ…。普段絶対履かないようなヒールの高い靴のうえに
トレーンの長いドレス…絶対転びそう。
そんなことにならないように、ちょっとずつ歩く。

と、本当は右隣が控え室のはずなのに、廊下でさらさらの赤毛がいったりきたりと
揺れているのが見えた。

次へ
posted by うみ at 13:11| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月19日

未来の指定席2

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
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[2]
パステルは既に耳かきに集中していて、一言も話さないから
余計にこっちは色々、色々、色々と考えちまう。
視線を下にすると膝小僧がアップで視界に入ってくるから
おれはなるべく視線を上の方に泳がせていた。

と、ふいにパステルが口を開いた。
「どう?気持ちいい?」
き、気持ちいいだ?!
おまえは何言い出す……あ、耳かきね。
一瞬ものすごい動揺をしたものの、なんとか平静を保って答える。
「ん、まあ…」
でも、本音を言えばかなり気持ちよかった。
耳かきされてない方の耳辺りが。

おい、これって、かなり幸せなんじゃん?

ようやくそう思う程の余裕ができた頃、階下で話し声が聞こえてきた。
……。
クレイと旅館のおかみさんだ!
…もう帰ってきたのか。
やばい。
こんな状況見られたら、何言われるかわかったもんじゃねえ。

「おい、パステル。もう終わ…△※◎#!!」
この続きはおれの声にならない悲鳴で途切れた。
パステルのやつ、耳かきをどこまで入れやがったんだ!
痛みのあまり、あいつの膝から床に転げ落ちた。
「ご、ごめんっ!!痛かった? 大丈夫?!
あのっ、普段ルーミィの小さい耳しかやってないから
加減わかんなくて…」
おれは耳を押さえながらも、とりあえずよろよろと立ち上がった。
「…ったく。おまえに頼んだおれがばかだったよ」
「ごめん〜!今からは気をつけてやるから。
まだ途中なの。もう1回こっち来て」
パステルがおれの腕をつかむが、クレイが階段を上り始めた音がする。
おれは素っ気無く手をふりほどき
「次は耳から血が出かねないからな」
と足早に扉に向かい、取っ手に手をかけた。
後ろからはあきらめきれない様子のパステルが
「じゃ、いつかリベンジさせてよね!」
と声をかけてきたが、おれはヘラヘラ笑いだけを残し部屋を出た。

間一髪、クレイより先に部屋に戻る。
ふう。
……。
おれの頭ん中ではあいつの最後のセリフがリフレインしている。

よぉーし、言ったな、あいつ。
いつか絶対リベンジしてもらおうじゃないの。
おれはわずかばかり残っているさっきの感触を思い出し、
「いつか」は別に明日でもいいけどな…と一人つぶやいた。


Fin
posted by うみ at 08:25| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月18日

未来の指定席1

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
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未来の指定席

[1]
おれがいつものようにパステル達の部屋の扉を開けると
ベッドに腰掛けているパステルの膝の上で
ルーミィが耳かきをしてもらっていた。
しかも、気持ちよくなったのか既にすっかり熟睡中らしい。

ふーーーーーーん。
耳かきか…。

「どうしたの?」
おれが来たのを機に終わりにしたのか、
寝ているルーミィを膝からはずし、横に寝かせる。
「いや、昼寝しにきたんだけど…おれもそれしてもらおうかな」
ちょっとの期待がなかった訳じゃないが、ま、どっちかってーと
いつものからかい半分で言ってみた。
当然、あいつは
「はあ? いっつも自分でしてるじゃない」
ときたが、
「だぁらさ、自分ですると取り残しとかあるかもしんねーじゃん。
ルーミィで鍛えたその腕の見せどころだろ?」
と、とってつけた理由でちょっとねばってみたところ、なんと意外にもOKが出てしまった。

「…ふーん、わかった。ま、実はわたし、人の耳かきするの大好きなんだよね!
いいよ!やったげる!」

人の耳かきするのが好き?!
おれには理解不能な感覚でついていけねえが、ともかく何やら
おれにとって嬉しい展開になっていることは間違いない。
ここは素直にのっておくか。
「んじゃ…」
と近づいた時、ふいに気づいた。

ど う い う 姿 勢 で し て も ら え ば い い ん だ ?!

しかし、パステルは何の疑問も持たずに両手を軽く上にあげ
スペースを作っている。
尚も固まっていると何にも考えてなさそうな笑顔で
「あ、左側だとルーミィにぶつかっちゃうかもしれないから、
右側に座ってこっちに倒れて」
とご丁寧にアドバイスをくれた。
…そうだよな。本人がいいって言ってんだもんな。
というか、そういうことを全然意識してないんだよな、こいつは。
そうだ、そうだ。おれも何も考えるな、何も…。
邪念を打ち払うようにしてあいつの右側に座り、横になる…、その、膝の上に。

……。
…無理!
消えやしねえよ、邪念なんてよ!!

やっぱやめよう、こんなこと。
そう思ったおれが
「ごめん。やっぱ…」
と言って頭を持ち上げた途端、すごい勢いで下に押された。
「なっにしてんの、トラップ!危ないじゃないっ!!
もうっ。後ちょっとで耳かきの棒が刺さっちゃうとこだったよ!」
有無を言わせぬ勢いで耳の上の方を左手でひっぱられ、その甲で頭を固定されてしまった。

万事休す。

[2]へ
posted by うみ at 10:11| Comment(2) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年06月10日

シチューの勇気1

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
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シチューの勇気
[1]

カタン…。

やっぱりか。
おれは隣の扉の音を聞き、小さく溜息をついた。
クレイとキットンは既に寝息(というかいびき)をたてていたが、
おれは今日のことが気になって隣の部屋に神経を集中してたら
寝れなくなっちまった。
そしたら案の定、あいつも寝れねえらしい。
まったく…どこか行くとなったら、おれが様子見るしかねえじゃねえか。



ま、ことの起こりはってえと……おれなんだよな。
今回に関しては逃れようがない。おれが悪いよ。
昼間におれの親衛隊ってやつが、夜皆で食事作るから来いっつったんだよ。
断る理由はねえし、かと言って自分一人で行くのもなんつーか
あいつの手前したくなかったつーか……まぁいい。
とにかくどうせならパーティ全員で食べれば夕飯代も浮いて
うちの財政担当も喜ぶだろうと思って
「だったらパーティ全員で行こうぜ。メシ代浮くし」
て言った訳よ。

で、行ったはいいが親衛隊のメンバーはメシ持ってくる度に
「おいしい?」
って聞いていて、それをまたよせばいいのに
「やっぱ手の込んだ料理はうめえよなぁ。
いつもの貧乏料理とはえらい違いだな」
とか言っちまうんだよな、おれは。
でもま、そのくらいの軽口はあいつも慣れてるし、
どうってことないだろと思ってたんだよ。
だけど、その後がまずかった。
親衛隊のねーちゃん達が隣のパステルに聞こえよがしに
「やっぱりー? トラップがいつも食べてるのって粗食でしょ〜?」
「そうそう。冒険先だとただ焼いただけとかなんでしょ?」
「こんな手の込んだシチュー、絶対トラップは普段作ってもらってないと思ったんだ」
「やっぱり“おふくろの味”を感じる料理作れないとダメよね〜」
なんぞと言いやがった。

もちろん、あいつらはパステルの「おふくろ」が14の時に亡くなってる
なんて知らずに言ってるに違いない。
だから、おれは親衛隊のメンバーを怒ることもできず、かと言って
その場でパステルをフォローするかっこいい男を演じられる訳もなく、
ただ黙って食うしかなかった。
わかってる。
こんなとこに連れて来たおれが悪い。
親衛隊にあんなことを言わせるような軽口を叩くおれが悪い。
んで、フォローもできないおれが悪い。
だけど…それがおれなんだよな…。ほんとしょーもねえよな。

しかもこっちの会話が聞こえてなかったのか、向こう側に座ってるクレイとキットンは
ノー天気に「おいしいな」「いやはやほんとに!」などと追い討ちかけてやがるし。
お前らな!おれじゃ、あいつを励ますことできねえんだよ!
そういう役目はお前らだろ?!…ったく、追い討ちかけてどーすんだよ!
おれは自分の言ったことも棚にあげて理不尽な怒りを溜め込んでいた。


そして、隣のパステルは…わかりやすい程に落ち込んでいた。

それは旅館に着いても変わらず、おれはイヤな予感がして
布団に入ってからも隣の部屋が気になってしょうがなかった訳だ。





階段を降りる音がした後、そっと後を追って降りると
あいつは台所に入っていった。
…大体あいつの考えてることはわかるぞ。
今日のシチューを再現しよう、とか
「おふくろの味」を作ってみようとか
大体そんなところだろ。
…ったく、なんでおまえはそう行動が単純なんだよ。

…なんで、そうやって考え込んじまうんだよ。

おれは台所の入り口の廊下脇にそっと座り込んで
あいつがなるべく静かにやっているんだろうっていう小さな包丁の音や
火をつける音を聞いていた。

…って、おれは何やってんだよ!
今、出て行って一言
「本当は親衛隊が作った料理よりおまえの料理の方が好きだ」
とか
「母ちゃんの味よりお前の味の方がおいしいぞ」
とかって言えば、済むんだよな。
わかっちゃいる。わかっちゃいるが、そんなセリフを
おれが言ってるところを想像すると……だめだ!ありえねえ!
ガラじゃねえんだよ!
そーゆーこと言うのは昔っからクレイって決まってんだ。

あーだこーだと一人格闘している間に
結局あいつは料理を作り終えてしまったらしい。
そっと入り口から覗き見ると味見をしているところだった。
が…、その後に見えたのは震える肩とその肩と口を押さえるように
して回された腕。
あいつ、泣いてる…?
そう思った時には何も考えず、入り口に立っていた。

次へ
posted by うみ at 11:55| Comment(2) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

シチューの勇気2

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。


[2]

「あにやってんだよ」
そういうおまえが何やってんだ…と自分に突っ込みを入れながらも
もう声かけちまったもんはしょうがねえ。
パステルは手で顔をぬぐいながらも、こっちを向いた時は笑顔だった。
こいつ、これで泣いたのがバレてないとでも思ってんだろうか…。
ま、おれの目の前で泣かれる方が困るからいいけどよ。
「…ちょっと急に料理したくなっちゃって。
あっ、もしかして起こしちゃった?」
まさか「扉の音聞いてからずっとすぐそばにいました」なんて
言える訳がねえし。おれはとっさに
「いや…腹減って起きた」
と言い訳がましく言った。それ以上言うべき言葉も見つからなかったんで、
とりあえず近くまで寄って鍋を覗き見る。
…やっぱりシチューかよ。

でも、うまそうじゃん。
…と、言葉にするのも照れくささがあったから、おれは
手近にあった皿に無言でシチューをこんもり盛った。
「あーっ!ちょっと待って!」
慌てるパステルに、チラリと視線を投げた。
「あんだよ。おれが食っちゃいけねぇのかよ」
「え、ううん。そうじゃないけど……し、失敗したから」
「腹減ってるから気にしない」
そう言うとおれはこんもり盛ったシチューを
目の前のテーブルにどんっと置いてガツガツ食べ始めた。
別に。
これ、普通にうまいんじゃないの?
ま、パステルの料理の腕はわかっちゃいるけどよ。
ってことはやっぱり、あいつがさっき泣いてたのは、
今日のシチューとの比較じゃなく、「おふくろの味」にこだわってるんだろうな。
そうじゃないかとは思ってたけどよ。

さっきの言うべき言葉を言うんなら今だよな。
「母ちゃんの味よりお前の味の方がうめえぞ」
ってやつ。
よし、今……。
今……。

そう思ってるうちに皿のシチューを全部食べ終えてしまった。

何やってんだよ、おれはっっ!!
正直、親衛隊の食事会の時もたらふく食わされたから
腹なんか減っちゃいねえ…というか、むしろ腹いっぱいなんだけどよ、
こうなりゃもう一皿食ってやろうじゃないの!

おれが決死の覚悟で皿を手にして、いざ鍋へ!という瞬間、
あいつが鍋の前に腕を出してきた。
「ちょ、ちょ、ちょーーーっとストップ!!!」
相当慌てている。
「トラップ、それはちょっと食べ過ぎだよ。シチューなんだし、
明日食べよう、明日!」
言われなくても、食べ過ぎなのは百も承知なんだよ。
でもな、それじゃおめえを励ますキッカケ掴めないじゃんか。
……なんていう事情がこいつにわかる訳もなく。
おれは敗北宣言するしかなかった。
「ふんじゃ、そうする」

そうして、スタスタと台所の出口へ向かった。

かーーーっ!!
このまま戻ったら、おれ何しにきたんだよ。
これが最後のチャンスだよな。
今しかもうないよな。
おれは覚悟を決めて出口で振り向きざま早口に言った。

「それ、母ちゃんの味に近い」


言った。
言ったぞ。
おれは言ったと同時に階段をかけ上り(もちろん、音は立てずにな)
布団にもぐりこんだ。
いや本当は「母ちゃんの味よりうまい」って言うはずだったんだっけ。
ま、まぁいいか。
なんとなく伝わったよな。

少しして、気遣いながらも(でもこっちは結局音を立てて)上がってきた足音は
心なしか、さっきの降りる音よりも軽い感じがする……のは気のせいか?
もう一度聞こえた「カタン」という扉が閉まる音を聞きながら、おれは
数年後にあのシチュー毎日食べれるのがおれだったらな……なんぞと
くだらないことを考えながら、今度こそ眠りについた。

Fin

後書き
posted by うみ at 11:52| Comment(4) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年05月27日

その笑顔を

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。

トラパシストの方へ
とは言っても今回はただのモノローグです。
すみません…



その笑顔を〜monologue

いつから好きなのか

なんて。
今のおれにとっちゃどうでもいい話だ。

今重要なのは
この想いをいつまで抱いていていいのか。

いつ
全てを吐き出しちまっていいのか。

そう
おれはもう吐き出してラクになりてぇ自分がいる。
気持ちをためる、なんてガラにもねぇことしてるのは
とうに限界にきている。
たとえその結果アイツがどんな拒絶をしようとも
それはそれで受け止める。
前に突然出てきたアイツがプロポーズした時点で
一度受け入れたんだ、できないことはない。


でも
アイツは。
吐き出された側のアイツは。
きっとアイツのことだ。
悩むだろう。
自分ことをむやみに責めるだろう。

それに。
吐き出したらもう、アイツの望む「仲良しパーティー」には
戻れないだろう。

わかるから、できない。

そんな吐き出せねぇ気持ちを持て余すぐらいなら
いっそこの想い断ち切れりゃいいのに、それもできやしねぇ。

おれは今までどんなに失敗したって、どんなに窮地に陥ったって
迷ったことはねぇ。
いつだって答えは「GO」だった。

でも、そのおれが迷っている。

進めないでいる。

恐れている。
あいつの笑顔が消える、そのことだけを。


…つまりは
ガラにもねぇことこれからも続けるしかねぇってことだ。


だからせめて
おれの気持ちを言える時がくるまで
このまま隣でオマエの笑顔を守らせろよ。

…いいよな?
posted by うみ at 10:15| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年05月23日

ささやかな望み1

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。

トラパシストの方へ
とは言っても原作レベルのほんのり度です。
すみません…



ささやかな望み


それは、おれがちょうど部屋を出ようとした時だった。

コンコンッ

同い年くらいの見知らぬ男がパステル達の部屋をノックしていた。
冒険者ではなさそうだ。
つーかなんだよ、コイツ。
「そこの部屋に用事あんの?」
おれが聞くとへらっと笑いながら
「あ…はい。出かけてるんですか?」
と聞き返してくる。
「当分帰ってこないぜ。連れだから用ならおれが受けとくよ」
おれはなんとなく「連れ」という部分を強調してみた。
ふん。それくらいいいよな。
だが、そいつはそんなこと気づいちゃいない様子で
「いや、お礼をしたいので…また明日きます」
とへらっとした笑顔のまま階段の方へ向かった。
が、階段を降りる直前に立ち止まりおれの方に顔を向け
今度は笑顔なく言った。

「…で、連れってことは彼氏なんですか?」


(1)
その日、パステルが帰ってくるまでおれはさっきのことを
思い出しては不機嫌になっていた。
あんな名前もわからないようなヤツにまでなんでおれは
動揺するんだよ!さらっと
「それがあんたに何の関係があるんだ?」
くらいに切り返せば済むのに。つーか、相手がパステルじゃなきゃ
それっくらいのこと言えるはずなんだよ。
なのに…。
真っ赤になったのは自分でもわかった。最近この件じゃ
顔色もコントロールできなくなってきてやがる。
あげく
「違ぇよ」
しか言えなかった…。
ヤツはヤツでふっと笑って
「あぁ、そうですよね。違うお部屋ですし。…では」
だとっ!!
あぁっ!むしゃくしゃするっ!!

そんな風に部屋で一人イライラしてるうちに階段を上がる音がした。
ま、盗賊のおれ様にかかれば、その音が誰のもんかはすぐわかる。
おれは部屋を出て行き、ちょうど階段をあがりきったパステルに
声をかけた。
「おい」
「あ、トラップ!どしたの?」
話しながらもドアを開け部屋に入るので、おれはそれに続く。
「さっきな、お前の部屋ノックしてた男がいたぜ」
「ふ〜ん、トラップの知らない人ってこと?」
「そ。結構爽やかでかっこいいヤツだったけど、いつの間に
おめぇあんな男ひっかけたの?」
おれなりの精一杯のさぐりがこれかと思うと自分自身やんなるよな。
案の定パステルはむくれている。
「そんなことする訳ないでしょっ!!ほんとにもう…。
でも誰なんだろ?」
「なんか『お礼をしたい』とか言ってたな」
「…ああ!!じゃあ、きっとモストだ!」
「誰だ、そりゃ?」
知らない男の名前を出されて(知らないヤツなんだから当たり前なんだが)
明らかに不機嫌な声になってしまった。
が、毎度のように向こうはそんなことにゃ気づいてない。
「昨日買い物行った時にね、道聞かれたのよ。」
ぶはっ!おれは一瞬で不機嫌も吹っ飛び、素でふいてしまった。
なんつー人選ミスしてんだ、そいつは!
横目でおれの笑いをニラみつけながら、話を続ける。
「…で、まぁ予想通りあっちこっち行っちゃったんだけど、
最終的にはちゃんと案内したの!」
「くっくっくっ。そいつもまぁかわいそうに」
おれは本心から言った。…が、待てよ?
「ほんで、道案内しただけで名前言ったのかよ?」
「あ、ううん!無事着いた時に『ノド乾いたからお茶でも
しましょう。おごりますから』って言われたからお茶して
きたの。その時お互いの話したから」
瞬間、おれは目の前のこいつとさっきのあいつが楽しそうに
お茶している風景をまざまざと想像してしまった。
…前言撤回!何が「そいつもかわいそう」だよ!

「あのな!そーゆーのをナンパっつーんだよ!」
きっと今のおれはそうとう不機嫌顔に違ぇねぇ。
というか、そろそろなんで不機嫌になるのか気づけってーの。
なのに当の本人は
「え?そうなの…?…そっか…言われてみればそうかも…。」
だと。
「大体なんでこの旅館まで知ってるんだよ」
「う〜ん…。あっ、そうそう。この町で一番安い旅館に
泊まってるって言ったからかな」
……。
誰かこいつに“警戒”って言葉を教えてやってくれ…。
「…パステル。確かにおめぇは出るとこでてないお子様体型だけど
一応女なんだってこともうちっと考えろよ」
「な、何よぉ!そんなことわかってるもん」
「ほんとか?」
「うん」
「じゃあ、たとえば…」
そう言うとおれはふいにパステルのあごに手をかけた。
ふっと顔を寄せる。

寄せた先には、あまりにも予想通りに目を見開いたまま
硬直してるパステルの顔…。

ふっ…ほんとにまったく。
「ほらな。おめぇってスキありまくりなの」
手も顔もぱっと離し、ドアの方へ歩き出す。
後ろからは蒸気と噴火がおこってるのが目に見えるようにわかる。
「ばかばかばかばか、バカトラップーーーーッ!!」
ばかでもなんでも。
おれはこういうことをできる今のポジションが楽しいんだよ。
そんで、それを誰かにとられたくはないんだよ。
今はそれ以上望まないから、許せ。

後ろからは相変わらず
「もうっ!ちょっと!!聞いてるのっ?!」
とぷんすかした声がするが、おれは構わずドアに手をかける。
そして
「あ、そのモストだかミストだかってやつ。明日来るってよ」
と言いたくもない伝言を残して部屋から出て行った。

続く
posted by うみ at 09:48| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

ささやかな望み2

(2)
次の日。
おれはまたモスト(ミストだったっけか?)に会うのがいやで、
もっと言えば隣の部屋から二人の話し声が聞こえてくるなんて
考えただけでムカムカしてきたんで、夕飯ぎりぎりまでめいっぱい
カジノをやっていた。
(惜しくも負けた。あくまでも「惜しくも」だ!)
みすず旅館に帰ると、今日は猪鹿亭で食べるっていうんで
パーティ全員で向かい、久々に満腹になるまで食った。
で、他のメンバーは旅館に向かう中、
おれはわざと入り口で会計を済ませているパステルを待っていた。

「あれ?トラップ。待ってるなんて珍しいね」
「は?おめぇのことなんか待っちゃいねぇよ。ついさっきまで
女の子と話してただけ」
こいつの前だとどうしてここまで虚勢張りまくりの答えが
出てくるのか自分でも不思議だ。
「ふーん。」
しかも、ふーんで終わりかよ!…しゃーない。本題だ。
「…で?」
全然本題に切り込めてないねぇおれのセリフに当然パステルは
「で?って?」
と聞き返してくる。
「だぁら、昨日のナントカってやつ、今日来たのかよ」
「あ、ああ!そのことか〜。来たけど、なんで?」
「なんでって…。いや、ナンパから花咲くこともあるってんで
いよいよお子様パステルにも進展あったかと思って」
おれはこういった時に決まって浮かべるニヤニヤ顔をして言った。
「なーに言ってるの?!ある訳ないでしょっ!」
「じゃ、ほんとにお礼だけだったつーの?」
「えっと。なんか『明日からは毎日会いたい』とか言われたけど…」
聞いてるだけで鳥肌たった。
おれにはぜってぇー言えねぇセリフだ。
「充分進展してるじゃねぇかよ」
「え?だって、『会う』だけでしょ?でもさ、わたし達って
いつまたクエスト始めるかわからないじゃない?
だからモストには『毎日って言ってもすぐまた冒険しちゃうかも
しれないから約束はできない』って言ったら、なんか
笑われちゃったの。冒険者をバカにしてるのかなぁ?失礼よねっ!」
あいつは心底憤っているようだった。
そうだった。
こいつはそういうヤツだったよ…。
くどきを直球で返されてモストが苦笑している姿を
なんとなく想像した。
…同情するよ。前言撤回の撤回。やっぱり人選ミスだよ。
やっぱり「かわいそう」だよ。おれと同じく…な。
おれは思わず
「っんとに、おめぇにはかなわねぇな」
とつぶやいた。
「何?」
とあいつはおれの顔を見たが、その瞬間はっと思い出したように言った。
「あ、そうそう。それでね。モストがトラップに伝言だって。
『これからも大変そうですけど頑張ってください』って」

あっいつは〜〜〜〜〜〜〜っっ!!
30秒もない会話でおれの気持ちを悟るなっ!!
「前言撤回の撤回」を撤回だっ!!
ヤツを「かわいそう」なんて思ったおれがバカだった!

「トラップもモストと結構話したの?何頑張るの?
……って、トラップ真っ赤だよ?どうしたの?」
パステルがおれを下からのぞきこむ。
気づかれて欲しくないヤツには30秒で気づかれて。
気づいて欲しいヤツにはとことん気づかれなくて。
くそっ。
おれは半分ヤケになってパステルをふいに抱きしめる。

「……!」
パステルの体が固まるのがわかる。

いつか。
おれが抱きしめても体を預けてくれる日がくるんだろうか。
おれは一瞬湧き上がった気持ちを抑えながら

「だぁら、スキがありすぎなんだよ、おめぇは」

と言って、めいっぱいいじわるな笑いをしてみせた。
「〜〜〜〜ットラーーーーーープッ!!!」
肩をわなわなさせながら叫んでるあいつから逃げるように先へ急いだ。

いいさ。
おれはこういうことをできる今のポジションがあって、
そんで、それを誰かにとられなければ。

今はそれ以上望まない。


Fin
posted by うみ at 07:00| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2005年05月19日

恋心1

※「フォーチュン・クエスト」((c)深沢美潮/迎夏生/メディアワークス/角川書店)の創作です。
トラパスですので、そのカップルはだめ、カップリング自体だめという方は
ご遠慮ください。

トラパシストの方へ
とは言っても原作レベルのほんのり度です。
すみません…





恋心

気持ちのいい昼下がり。
そろそろ…かな、マリーナが来るの。

昨日からエベリンに買出しにきた私達。
なので、当然昨日も1回マリーナに会っているのだけど、
私はふとアイデアを思いついてしまったのだ。

名づけて「クレイとマリーナを二人っきりでお話させてあげよう作戦!」。

だぁって…ねぇ。
クレイとマリーナが会う時って大抵「パーティ皆と」でしょう?
今まではあんまり考えてなかったけど、この間マリーナと話して
気持ちをはっきり確認したからには、私のおせっかいな気持ちが
ムクムクしちゃって。
なので、マリーナに昨日の帰り際(当然これまた皆でお見送り)そっと
「明日の午後もう1回来れる?」
って聞いたら「うん、大丈夫よっ!!」って満面笑顔の返事。
好きな人に久しぶりに会えたからだろうなぁ…マリーナってば
ほんと「恋する女の子」になってる。いいなぁ…。
私はすかさず「そしたら明日はクレイとゆっくりお話してね♪」
と耳打ちして意味ありげにウィンクを…多分ウィンクになってなかったと思うけど…
してみた。
マリーナはえ?という顔をしたけど、その時にはもう
私は少しマリーナから離れて皆と一緒にニコニコと手を振ったので、
マリーナはまったくもぅって顔を一瞬私に向けた後、
パッとまた笑顔になって「ありがとね、パステルっ!」って言ってから
これまた皆に笑顔と手を振りまいて帰っていった…。
ということで、今がその作戦開始時間になった訳。

とりあえずルーミィとシロちゃんは私の部屋でお昼寝始めたところだから
当分OK!ノルは小屋の方でこれまた問題なし!
一番やっかいなのはやっぱり、クレイと同じ部屋のトラップとキットン。
とにかく部屋に行ってみるしかないよね。

コンコンッとドアを叩いたら、中からクレイの「はい」との返事。
「私なんだけど…」
と言いながら素早く部屋の中を観察っ!
クレイは昨日買った「剣の心得〜迷いを捨てよ」という本を
読んでるところらしかった。ってことは、当分出かけないわよね。
それが一番心配だったので、ほっとした。
…と…「あれ?キットンは?」
「う〜ん、なんか調べ物するとかで図書館行ったみたいだよ。」
「そっかぁ。エベリンの図書館の方が充実してるもんね!」
「キットンに用だった?」
「え?ううん。そういう訳じゃないから大丈夫!」
と話しながら、心の中ではガッツポーズ!!
キットンのことだから、図書館なら時間を忘れるほど調べ物するに違いないもん。
ラッキー!!

となると、話は簡単で。
この会話の最中に
「…んだよ。人が気持ちよく寝てれば隣でがぁがぁと」
とベッドの上でうっすら目を開けたトラップさえ連れ出せば作戦完了じゃない!

「トラップ!いいとこで起きてくれたな〜。ねぇねぇ、買い物つきあってよ」
また寝ないように近寄ってベッド脇にひざをついて言うも、トラップは
ジロリと一瞥した後
「人起こしてさらにパシリかよ」
と言ってぐるりとこちらに背を向けてまた寝る体制に入ってしまった。
や〜ん、「話は簡単」なんて帳消しっ!
トラップを誘い出すことほど大変なことはないんだったわ…。
ちょっと途方にくれかけたところで後ろからクレイが
「ならオレがつきあおうか?別にヒマだし」
と言ってくれた。い、いや普段なら「言ってくれた」だけど、この場合それじゃ
意味ないのよ〜!
「やっ、あの、今日はトラップにお願いしたくって」
こういう時とっさにスマートな嘘をつけない私って…。
絶対突っ込まれる!と思った瞬間、背を向けてたトラップがむくっと起き出し、
「ふ〜ん、“今日は”ねぇ。よくわかんねーけど、そうまで言うなら
買い物行こうじゃねぇの」
と言いながらもう扉に向かって歩き出したので、慌てて後を追う。
クレイも「そっか。じゃあ、よろしくな」と私の不自然さに気づいてないのか
流してくれたのか、そのまま送り出してくれた。
よ、よ、よかったぁ…。
これでなんとかマリーナへの約束は果たせそう!!

----1----

「んで、おめぇは一体何企んでる訳?」
とりあえず一番メインの商店街に向かって歩き出したところで、トラップは
ニヤっと私にいじわるそーな顔を向けてきた。
…やっぱりトラップには私の不自然さバレバレか…。
「べっつにー。」
とにかくここは流すしかない。
と、さらにトラップは嬉しそうにいじわるな顔を輝かせ
「おめぇさ、最初はキットンの居場所確認して、次はおれを連れ出しただろ?
それってどー考えてもクレイを一人にしたかったってことだよなぁ?」
げげげー!キットンの会話のところから起きてたの〜?
しかもなんでそこまでバレちゃうのよっ!!
「そっ、そんなんじゃないもん!」
うっ…ほんとに私ってどうしてスマートに流すことさえできないのかしら…。
自分に情けなくなってくる…。
でも、トラップはそこから先は突っ込むこともなく、
「ま、いいんじゃねぇの。」
と言いながら、私の頭をぽんぽんと叩いた。
な、なんか「おれは全てわかってるぜ」って感じ。
く、く、悔しーーーーーっ!!!

そんな会話をしているうちに、メイン商店街の入り口が見えてきたのだけど。
とっさに「買い物」と言ったはいいものの、実は昨日ほとんど買いたいものは
買っちゃったから、特に用事はないのよね。
う〜ん、どうしよう。
と。

「おおーーーーいっ!その子っ。その子捕まえてくれ!万引きだー!!!」
商店街の入り口からおじさん風の声が聞こえてくるのとほぼ同時に
私達の目の前を私の腰に届かないくらいの背丈の子がすり抜けていった。

まだ昼間だからか、そんなに人出もなく、逃げているその子に未だ一番近いのは
私達だった。私とトラップは目を合わせて、追いかける。
助けを求められると動かなきゃって思うのは…やっぱり冒険者魂ってやつかも。

でも当然のことながら、トラップの方がだんだん先に行っちゃって。
その子はその子で脚力には敵わないと思ったのか、狭いところや低いところを利用して
逃げるので捕まえられそうで捕まえられない。
私はもうその子を追いかけるというよりはトラップを見失わないように追いかけるので
精一杯…と思いながら、トラップが消えた角を曲がると、そこは行き止まりになっていた。

「こっのクソガキャー!てこづらせやがって!」

トラップはさっそく座った状態でその子を羽交い絞め状態にしていた。
バタバタ暴れてるのは、5歳前後の男の子。
「ちょ、ちょっとトラップ!子供相手に本気はやめてよね!!」
慌てて近寄ると、トラップも少し手を緩めたのか、スルっとその子が
トラップから逃げ出した。
そして大粒の涙を浮かべながら
「お、おねぇちゃーーーんっ!!ごめんなさぁぁぁぁいっ!」
と私の太ももにガシっと抱きついてきたのだ。
トラップは「ケッ。今度は泣き落としかよ」ってあきれてる。
でも、つい追いかけちゃったけど、小さい子だし、ここまですることなかったのかも…。
ちょっと後悔の念が湧き上がってきた私は、抱きついてきた小さな手を
ゆっくりとはずしながら、しゃがんで同じ高さの目線で話した。
「こっちも追いかけちゃってごめんね。でもね、あのおじさんのお店から何か
とってきちゃったんだよね?見せてくれるかな?」
するとその子は涙でべちょべちょになった手をポケットに入れてから
「はい」
と差し出した。
それはなんと、日に当たってキラキラ光ってはいるもののおもちゃのペンダントだった。
「これ…。どうするつもりだったの?」
するとまた涙の波がやってきたのか、ヒックヒック言いながらも一生懸命
説明してくれた。
「あの…あのね…ヒック。うちパパいなくてね…ヒック。ママも…ママも
病気がちでね…ヒック。お世話してくれる人がいるから…ヒック。
食べるものはあるけどね…ヒック。ママにきれいなものつけて欲しくてね…ヒック。」
そ、そうだったのかぁ…!いい子なんじゃない!!
私は思わずもらい泣きしながら、その子が愛おしくなってギュッと抱きしめてから言った。
「そっか。じゃあ、私がおじさんにお金払うから大丈夫よ。心配しないでね。」
すると、ずっと黙っていたトラップが突如例のセリフを言い出したのだ。

「甘い!甘い甘い甘い甘い!!」
「えーーーーっ!!トラップったらこの後に及んで何言うのよ!今この子の事情
聞いたでしょ?」
涙も引っ込み、トラップをにらみつける。
「ったり前だろ」
「じゃあ、いいじゃない!それともこんな小さな子を犯罪者として突き出せって言うの?」
私の犯罪者という言葉にその子がびくっとする。うぅ、ごめんね。
「違ぇーよ。そんなことは言ってねぇだろ?ただな。ここで金をぽいっと渡すことが
コイツのためにはなんねぇって言ってるの。そしたら、コイツはまた万引きして
大人にすがって金もらうようになっちまうだろ?」
「じゃ、どうしろって言うの?」
憤慨してる私には目もくれず、トラップはあぐらかいて座ったままその子に向かって話し始めた。
「あんな。金っていうのはさ、“頑張ったご褒美”なんだよ。頑張って人のために働いて、
それで金もらうんだよ。で、そのご褒美をお店に持っていくとおめぇの欲しいもんが
代わりにもらえるんだよ。わかるか?」
いつの間にか泣き止んでたその子は黙ってコクッと頷いた。
「よし。じゃあ、おれの肩をもめ。」
一瞬きょとんとしたその子を見ながら
「だぁら、おめぇ追いかけて疲れてんだよ。肩もんだら“頑張った褒美”ってのをやるよ」
と説明するようにトラップが自分の肩の部分をくいくいっと指した。
「…うん」
その子は涙の後をもう1回ぬぐいながらトラップの後ろに回って
小さい手でうんうん言いながら肩を押し出した。
「お!いいねぇいいねぇ」
トラップは極楽って顔してる。
でも、私は知ってる。
トラップは肩凝りしないってことを。
あんな小さい子が肩押しても全然ツボには入っていないだろうことも。

「ホレ!どうした」
「あともうちょい!」
トラップは掛け声をかけながら、最後には「よし。大分肩がラクになったぞ」
と大げさにぐるんぐるん肩を回して
「んじゃ、約束の褒美な。」
と、ペンダントの金額よりも多いであろうお金をその子に渡した。
私がふ〜んって顔してたら、なんだよって視線で返されたけど。
その子は大事そうにお金を手に握り締め、
「ありがとうっ!!」
と私達に会ってから初めてのキラキラ笑顔を見せてくれた。
かっ、かわいいーー!!

恋心2へ
posted by うみ at 11:06| Comment(0) | TrackBack(0) | FQ創作 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

恋心2

----2----

その後その子の手を引いてもう一度さっきの商店街に向かった。
私達から事情説明した方がいいかと思ってね。
案の定、私達を見つけたおじさんは
「捕まえてくれてあんがとよ!
…ボウズ!これからたっぷり説教してやるっ!!」
とお礼もそこそこにその子にニラミをきかせてきたので、慌てて両親の事情や、
その子が肩揉みしたご褒美にお金を渡したことも話した上で一旦
おじさんにネックレスを渡した。

「ホレ。さっきのご褒美出しな。そしたらネックレスは今度こそおめぇの
もんになるからさ」
トラップが促すと、その子はう〜っと押し黙ったままうつむいてしまった。
私はまたしゃがんで同じ目線で問いかけた。
「どうしたの?」
「…そのネックレスは返す…」
「ええ?!」「はぁ?」
上からはトラップの同時に驚いた声。
「ボク、大きくなっていっぱい働けるようになったらお金ためて、
それでママにいっぱいキレイなもの買ってあげる。それまでママに待ってもらう!
だから今日は返す!」
また泣きそうになるのを踏ん張ってこらえて一生懸命に話す姿に
私は二度目のギュッをせずにいられなかった。

「だとさ。」とトラップがその子を指差しながら、お店のおじさんに言うと
おじさんも私と同じようにしゃがみ、さっきのニラミはどこへやら…という
ぐらい優しい顔をした。
「ぼうず。それはいい心がけだ。じゃあな、これは私からそのママへの
プレゼントっていうことでママに渡してくれ。な?」
そう言ってネックレスとお店の名前の書いてあるカードを袋に入れて、
その子の手に掴ませてた。私の方にウィンクしてみせながら。
(おじさんのウィンクは私と違ってばっちり決まってた…)
そのウィンクを見て、私とトラップも目を合わせて頷いた。

「ほんとにいいの?」
その子は聞きながらもぱぁーっと明るい顔になって袋を握り締めた。
「いいともさ。その代わり、今言ったことちゃんと守るんだぞ。」
「うんっ!!ありがとう!!」
天使のような笑顔を振りまくと
「じゃあ、ママが心配するからボク帰る!!お兄ちゃんとお姉ちゃんも
ありがとうっ!!」
と言いながら駆け出しそうになるので、慌てて声をかけた。
「名前、なんて言うの?」
「アディ!ボク、アディ!」
そのセリフさえ風にのって聞こえてくるぐらいの勢いでそのまま駆け出して
行ってしまった。
ふふ、いつか大人になったアディに会えたらいいな。

----3----

「ありがとうございました。」
なんだか成り行きで私もお店のおじさんにお礼を言い、トラップの「行くぞ」
という声と共にお店を後にした。
なんだかこの騒動で大分時間たったし、もう家に戻ってもいいかなって
気がしてきたんだけど、買い物って言っちゃったからなぁ。どうしよう…。
なぁーんて考えてたらトラップが
「ああああああっ!!!」
とすっとんきょうな声を出すもんだから、私までびっくり。
「ななななな何よ」
「ネックレス、結局タダでプレゼントならオレの金返してもらうんだったー!!!」
が、がくり…。
「あーのーねっ!!アレは“頑張ったアディへのご褒美”なんでしょ。
だから返してもらうのは変でしょ?」
「そらそーだけどさぁ…」
がっくりしている姿とさっきの威勢のいい姿のギャップになんだか
笑いがこみあげてくる。
「ふふふ」
「何だよ」
「でもね、子供でもちゃんと一人前に扱って説明してあげる
トラップ、私は好きだよ」
私が褒めたら、トラップは顔を真っ赤にして
「っな…に言ってんだよ!」
と、先にスタスタと歩いていってしまった。
せっかく褒めたのにぃ!
「なんでよ〜!」
と後姿に声をかけたらピタッと足を止め、一瞬間があってから振り返った。

「じゃあ、おれは子供の目線になって話を聞いてやる
パステルが好きだけど?」

な、な、なーーーーーっ!
「何言ってるのよっ!!!」
顔が真っ赤になるのがわかる。そっか、確かにこの言い方って
褒めるっていうよりは…告白?!
わわわわ〜っ!!
「やっ…あのっ!私のはそういうんじゃなくて!」
あ、あれ?私のはそういうのじゃないって言うと
トラップのは「そういうの」みたいじゃん!
そ、そうじゃなくって!
アタフタする私を見ながら、反対にトラップはだんだんいつもの顔になっていく。
「はい、これでおあいこ。」
と、またもや頭をぽんぽん叩いた。
そう、やっぱり「全部わかってるよ」っていう感じに。
でもさっきとは違って、なんだか…居心地のよさを感じてしまうのは気のせい?

よくわからないけれど、この居心地のよさをもうちょっと
続けたくて、私は「買うもののない買い物」を続けたくなってしまった。
きっと、マリーナだってクレイと二人の時間が長い方がいいもんね。
うん、そう。これはマリーナのため。
心の中で頷く。

トラップの「で、どこ行くんだよ」というセリフに
「まぁまぁ、いいじゃない!」と相変わらずスマートな嘘もつけず
笑顔でどこまでもごまかす私。
それに対して「やっぱしおめぇ、買い物って口実だろ?」と
ニヤニヤするトラップ。

もう少し。
もう少しだけこのままで。



----4----

次の日、マリーナから「ありがとう」って幸せ顔で感謝されたから
作戦は成功したみたい。私はその間に起こった事件をありのまま
話したらマリーナから「そっかぁ。そっちはそっちで楽しかったのね。
後でトラップおちょくってみようっと。」となんだか企み顔で言われて
しまった。
う〜ん、なんでこの話がトラップをおちょくる話になるのかは
よくわかんないけど、ま、いっか。
「とにかくさ、これからも時々二人で会話できるようにするから、
旅館に私がいなかったら、クレイと会ってね。」
とマリーナに言うと、マリーナは
「そしたらさ、パステルに好きな人できた時は私も二人になれる
チャンス作るからね!!」
と、もう今からやるぞ!というくらいの勢いで返された。
そっかぁ。私も好きな人できたらパーティ皆じゃなくて、たまには二人で
話したくなるってことかぁ。なんか変な感じ。だけど。
「うん、じゃあよろしくね!」
と返事をしながら、ふと浮かんだのは
昨日の光景と
二人でいる居心地のよさと
もう少しこのまま…と思ったこと。

もしかしたら。
あんな感じ…?

fin
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